糖尿病性腎症の悪化の原因となるNBL1を発見 腎障害とNBL1の関連をはじめて明らかに
血中NBL1濃度とポドサイト障害や腎線維化所見に強い相関関係
研究は、日本大学医学部附属板橋病院腎臓高血圧内分泌内科の小林洋輝助教と、米ハーバード大学医学大学院ジョスリン糖尿病センターのAndrzej S. Krolewski教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Translational Medicine」に掲載された。
現在、日本の人工透析医療費は年間総額1.5兆円を超えており、その原疾患として糖尿病性腎症がおよそ40%以上を占める。糖尿病性腎症の病態解明、および治療法の開発は喫緊の課題になっている。
研究グループは、同糖尿病センターに通院する糖尿病患者、および米国アリゾナ州に住むピマインディアンの糖尿病患者の合計754人を対象に、腎機能が保たれている段階での患者の血液検体を使用して、TGF-βシグナルに関連する25種類のタンパク質を測定した。TGF-βシグナルは、腎機能低下の主因である腎臓の線維化で中心的を担うメディエーター。
その結果、10年以内に末期腎不全に至っていた患者では、同期間で末期腎不全に至らなかった患者群と比較して、血中「NBL1(神経芽細胞腫1;Neuroblastoma suppressor of tumorigenicity 1)」が上昇していることを明らかにした。
さらに、糖尿病性腎症患者の血中NBL1濃度と腎組織の障害の程度との相関関係について解析したところ、血中NBL1濃度とポドサイトの障害や腎線維化の所見に強い相関関係を認め、NBL1の発現量が腎組織障害の程度に影響を与えている可能性が示唆された。
ポドサイトは、腎臓を構成する糸球体上皮細胞で、尿を濾過するうえで重要な役割を担っている。糖尿病性腎症の病初期では、ポドサイトの障害が起きていることが知られている。
さらに細胞実験では、ポドサイトや尿細管細胞にNBL1を添加することで、それぞれの細胞のアポトーシス(細胞死)が誘導されることを明らかにした。
NBL1の発現量が腎組織障害の程度に影響を与えている可能性が示唆された
ピマインディアンの糖尿病患者(n=105)の腎生検所見についての解析
増加する透析患者数 医療費の抑制に光明
研究グループは研究について、(1) 症例数の多さ、(2) 長期の臨床経過情報、(3) 網羅的なタンパクを対象の観点から過去に例のない規模で糖尿病性腎症の血液検体を用いたタンパク測定、解析を行い、細胞実験とあわせてNBL1と腎障害との関連を世界ではじめて明らかにしたとしている。
「本研究で同定した血中NBL1が高値の糖尿病性腎症患者では、将来の末期腎不全の発症リスクが高いことが明らかになりました。さらに細胞実験ではNBL1が腎臓の構成細胞であるポドサイトや近位尿細管細胞に対して障害を与えることが明らかになりました」と、研究グループでは述べている。
今後の展開として、「NBL1を標的とした糖尿病性腎症の治療薬が開発され、人工透析患者数の抑制につながることが期待されます」としている。
日本大学医学部内科学系腎臓高血圧内分泌内科学分野
Neuroblastoma suppressor of tumorigenicity 1 is a circulating protein associated with progression to end-stage kidney disease in diabetes (Science Translational Medicine 2022年8月10日)