運動時のエネルギー消費をコントロールするタンパク質を発見 運動しなくてもエネルギー消費を高める薬の開発に期待 神戸大学と徳島大学

2024.07.23
 運動をすると筋肉がエネルギーを消費し、脂肪が燃やされて体重は減少するが、神戸大学と徳島大学の研究グループは、運動したときに筋肉で発現が増え、エネルギー消費を促すタンパク質であるPGC-1αbおよびPGC-1αcを発見し、その機能を明らかにしたと発表した。

 「運動しなくても、運動時と同様にエネルギー消費を強める薬(運動効果模倣薬)の開発につながる可能性がある」としている。

エネルギー消費を促すタンパク質を発見

 運動をすると筋肉がエネルギーを消費し、脂肪が燃やされて体重は減少するが、神戸大学と徳島大学の研究グループは、運動したときに筋肉で発現が増え、エネルギー消費を促すタンパク質であるPGC-1αbおよびPGC-1αcを発見し、その機能を明らかにしたと発表した。

 このタンパク質を生成できないようにしたマウスは、運動時のエネルギー消費が少なく、太りやすいことが分かった。

 同じ運動をしても痩せやすい人、痩せにくい人がいるが、このタンパク質の増えやすさにより、運動時のエネルギー消費の個人差を説明できるとしている。

 現在、食欲を抑える肥満症治療薬は使用されているが、エネルギー消費を増やす薬はない。このタンパク質を増やせる物質をみつければ、エネルギー消費を高めて肥満を改善する薬剤の開発につながる可能性がある。

 研究は、神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学部門の小川渉教授、徳島大学大学院医歯薬学研究部代謝栄養学分野の野村和弘講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Metabolism」に掲載された。

運動すると体重が減るメカニズム
運動をすると筋肉がエネルギーを消費するため、脂肪が燃やされ、体重は減少する。運動時には、筋肉でPGC-1αbおよびPGC-1αcが増え、これによりエネルギー消費が高まり脂肪を燃焼させる

骨格筋におけるPGC-1αの発現変化とエネルギー消費量の関係

出典:神戸大学、2024年

新規PGC-1αは運動により筋肉での発現を十倍以上に増加
運動時と同様にエネルギー消費を強める薬の開発に期待

 これまで運動時には、筋肉でエネルギー消費を増やすいくつもの遺伝子の発現が増加し、PGC-1αはこうした遺伝子の発現を促す作用をもつため、痩せやすさ・太りやすさと関係することが指摘されていた。

 ところが、PGC-1αを欠損させたマウスが太りやすくなることはなく、逆にPGC-1αを強制的に多く発現させたマウスが痩せやすくなることはないとの報告もあり、PGC-1αが痩せやすさ・太りやすさと関係するという仮説には疑問が投げかけられていた。

 研究グループはこれまで、PGC-1α遺伝子から作られる2つの新しいタンパク質(PGC-1αbおよびPGC-1αc)があることを発見していた。

 この新規PGC-1αは、従来のPGC-1α(PGC-1αa)とタンパク質の機能としてはほぼ同じだが、発現制御のメカニズムが異なり、運動によって筋肉での発現が十倍以上に増加する。

 一方で、以前から知られていたPGC-1αは運動によって発現がそれほど増えることはなかった。

 研究グループがマウスの遺伝子を操作し、従来のPGC-1αの量には影響を及ぼさず、新規PGC-1αだけを欠損させたノックウトマウスを作ったところ、運動時のエネルギー消費の増強が妨げられ、運動させても体重が減りにくいことが分かった。また、このマウスを長期間飼育すると、日常のエネルギー消費が抑制されるため、次第に太っていった。

 新規PGC-1αは、褐色脂肪組織での脂肪燃焼や熱産生にも重要な働きをすることも分かった。動物は寒い環境では褐色脂肪組織の熱産生が増えて体温を保とうとしますが、新規PGC-1αのノックアウトマウスは寒い環境で体温を保てなかった。褐色脂肪組織の脂肪燃焼減弱や熱産生低下も、このマウスの太りやすさと関係する可能性があるしている。

 「人間にもこの新規PGC-1αは存在し、マウスと同様に運動をすると、筋肉でこのタンパク質の発現が十倍以上増えることが分かった。運動による新規PGC-1αの増え方には個人差があり、新規PGC-1αの増え方が大きい人はエネルギー消費が高く、増え方が小さい人はエネルギー消費が低いことも明らかになった」と、研究グループでは述べている。

 「同じ量の運動をしても、エネルギー消費が多い人(つまり痩せやすい人)と、エネルギー消費が少ない人(痩せにくい人)がいるが、新規PGC-1αの増えやすさはこのような個人の体質を決める要因のひとつと考えられる」。

 「新規 PGC-1αを増やす物質をみつければ、運動時のエネルギー消費をより高める薬(運動効果増強薬)、さらには運動しなくても、運動時と同様にエネルギー消費を強める薬(運動効果模倣薬)の開発につながる可能性がある」としている。

神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学部門
徳島大学大学院医歯薬学研究部代謝栄養学分野
Adaptive gene expression of alternative splicing variants of PGC-1α regulates whole-body energy metabolism (Molecular Metabolism 2024年8月)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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