ACE阻害薬やARBの中止後の再開が末期腎不全への進行や死亡リスクを抑制 中止すると再開しにくい実態も 大阪大学

2024.08.08
 慢性腎臓病(CKD)患者で、ACE阻害薬、ARBなどのRAS阻害薬の投与を中止した後で、再開することが、腎予後・生命予後の改善と関連することを、大阪大学が明らかにした。

 「RAS阻害薬は副作用のためしばしば投与が中断されることがあるが、中止はCKD進行や死亡と関連するため、いったん中止されても適切に再開することが望ましい可能性がある」と、研究グループでは述べている。

 「高カリウム血症などの副作用に一定の注意を払う必要はあるが、再開を積極的に考慮する診療スタンスが有益である可能性がある」としている。

RAS阻害薬の再開は腎予後・生命予後の改善と関連

 慢性腎臓病(CKD)患者で、RAS阻害薬(レニン-アンジオテンシン系阻害薬)の投与を中止した後で、再開することが、腎予後・生命予後の改善と関連することが、大阪大学がRAS阻害薬の処方が中止された6,065例のCKD患者を対象に実施した調査で明らかになった。

 ACE阻害薬、ARBなどのRAS阻害薬は、降圧効果に加えて、心・腎保護効果をもたらすことから、慢性腎臓病(CKD)治療の中心となる薬で、近年では、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬も広く使用されている。

 一方で、RAS阻害薬は副作用のためしばしば投与が中断されることがある。いったん中止されると再開されにくい傾向があり、同大学の調査では、腎臓内科医が管理するCKD患者であっても、RAS阻害薬の中止後の再開率は37%にとどまった。

 RAS阻害薬を再開した群は、再開していない群と比較して、複合腎アウトカムと全死亡のリスクが低く、副作用である高カリウム血症との関連はみられなかった。

 「いったん中止されたRAS阻害薬をその後適切に再開することにより、高カリウム血症などの副作用に一定の注意を払う必要はあるものの、腎予後・生命予後の改善につながることが期待される」と、研究グループでは述べている。

 ただし、急性腎障害後に中止された症例では、RAS阻害薬の再開の利益が減弱する可能性があるとしている。

 研究は、大阪大学医学部附属病院の服部洸輝氏(現:淀川キリスト教病院腎臓内科医長)、大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学の坂口悠介特任助教、猪阪善隆教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Society of Nephrology」にオンライン掲載された。

RAS阻害薬中止後からの月数と、複合腎アウトカム、前死亡、高カリウム血症の関連

出典:大阪大学、2024年

中止されたRAS阻害薬をその後適切に再開
いったん中止すると再開しにくい実態も

 ACE阻害薬、ARBなどのRAS阻害薬は、高血圧や心不全、慢性腎臓病の治療に使用されており、降圧効果に加えて、心・腎保護効果をもたらし、CKD患者に対しても腎予後を改善する効果が認められており、CKD治療の中心的な薬剤として処方されている。

 しかし、高カリウム血症や急性腎障害などの副作用という理由から、しばしば中止されることが課題になっている。また、中止後の再開の是非はこれまで不明だった。

 研究グループは今回、研究群とその関連施設の腎臓内科が構築した保存期CKD患者のリアルワールドデータベースOCKR(The Osaka Consortium for Kidney disease Research)を用いて調査を行い、RAS阻害薬の投与が中止された慢性腎臓病(CKD)患者で、同薬を再開することが腎予後・生命予後の改善と関連するかを調査した。

 データベース中、RAS阻害薬の処方が中止された6,065例のCKD患者のうち、1年以内に処方が再開されたのは2,262例(37%)と半数以下であり、いったん中止されると再開されにくい臨床実態が浮き彫りとなった。

 RAS阻害薬の再開と非再開を、ランダム化比較試験(RCT)の結果を模倣したTarget Trial Emulationと呼ばれる統計手法を用いて比較した。

 その結果、再開群では非再開群と比較して、複合腎アウトカム(腎代替療法開始、推算糸球体濾過率[eGFR]50%以上低下、eGFR 5mL/分/1.73m2未満への到達)が15%低いことが判明した[HR 0.85、95%CI 0.78~0.93]。

 さらに、再開群では全死亡リスクも30%低かった[HR 0.70、95%CI 0.61~0.80]。

 一方、RAS阻害薬の副作用である高カリウム血症の発生に有意差は認められなかった[HR 1.11、95%CI 0.96~1.28]。

 これらの結果から、いったん中止されたRAS阻害薬をその後適切に再開することにより、腎予後・生命予後の改善につながることが期待されるとしている。

 ただし、RAS阻害薬の中止前3ヵ月間に急速な腎機能低下(eGFR低下率30%以上)や急性腎障害(AKI)があったサブグループでは、RAS阻害薬再開と腎予後・生命予後の関連が消失した。このような患者層では、再開後にもAKIを繰り返すリスクが高いことが予想され、再開することのメリットが減弱すると推察している。

 「RAS阻害薬の中止は、CKD進行や死亡と関連するため、いったん中止されても適切に再開することが望ましい可能性がある。高カリウム血症などの副作用に一定の注意を払う必要はあるが、再開を積極的に考慮する診療スタンスが有益である可能性がある」と、研究グループでは述べている。

 「RAS阻害薬中止症例での再開効果を検証するためのランダム化比較試験の実施が望まれる。一方、実臨床では、RAS阻害薬中止に至る原因や臨床判断、適切な再開タイミング、その後の腎臓内科医によるマネジメントの在り方が極めて多様であり、その複雑性を臨床試験のプロトコルに落とし込むのは至難の業だ」と、坂口特任助教はコメントしている。

 「その点で、リアルワールドデータからつむぎだされた本研究の知見には価値があり、これまで腎臓内科医により行われてきたRAS阻害薬の中止後再開の判断が妥当であったことを確認できたエビデンスとも言える」としている。

大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学
Estimated Effect of Restarting Renin-Angiotensin System Inhibitors after Discontinuation on Kidney Outcomes and Mortality (Journal of the American Society of Nephrology 2024年6月18日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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