【新型コロナ】なぜ高齢者は重症化しやすいのか? 加齢にともないキラーT細胞は減少、老化したキラーT細胞は増加

2021.08.25
 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は、新型コロナウイルス反応性T細胞のうち、高齢者ではナイーブ型のキラーT細胞が若齢者に比べて少なく、老化したキラーT細胞が増えていることを明らかにした。このことが、高齢の患者で新型コロナが重症化しやすい理由のひとつと考えられる。

 ナイーブ型T細胞が抗原刺激を受けると活性化して増殖し、侵入してきた病原体と戦う多くのエフェクターT細胞や2度目の感染に対して強く速い応答を起こす記憶T細胞などへと分化する。

 新型コロナに対する高齢者のT細胞応答を増強するために、キラーT細胞を標的とすることがより効果的である可能性が示された。

新しい病原体を認識するナイーブ型T細胞は加齢とともに低下

 研究は、京都大学CiRA未来生命科学開拓部門/大学院医学研究科の城憲秀特定助教、同部門の濵﨑洋子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Aging」に掲載された。

 免疫系は、異なる特異性をもつ抗原受容体を発現するT細胞集団を一定数準備しておくことで、未知の抗原に対する反応性を保証している。反応する抗原にまだ遭遇していないT細胞をナイーブ型T細胞といい、この分画の割合が高いことは一般に、新型コロナウイルスなどの新しい病原体をT細胞が認識できる可能性が高いことを意味する。しかし、ナイーブ型T細胞の割合は加齢とともに徐々に低下する。

 一方、特定のウイルスに一度感染すると、記憶細胞を体内に残すことで過去に遭遇したウイルスの情報を記憶することができる。同じウイルスに遭遇した場合にはその記憶細胞が素早く増殖して対応し、感染を未然に防いだり症状の悪化を抑えたりする。この記憶細胞を人為的に誘導するのがワクチンだ。

 新型コロナウイルスははじめて遭遇するウイルスだが、風邪の原因のひとつであるコロナウイルスによく似ているため、こうしたウイルスに対する記憶細胞の一部が新型コロナウイルスにも反応しうる(=交差反応)という報告がある。つまり、未感染の人でも新型コロナウイルスに対する免疫記憶をすでに一定程度もっていると考えられる。

 こうした背景から、加齢や、過去の感染によって、すでに獲得した新型コロナウイルス反応性記憶型T細胞(交差反応性T細胞)の数や機能の違いが、COVID-19の重症化の年齢差や個人差に影響を与えている可能性が指摘されている。

高齢者はナイーブ型T細胞が少なく、老化したT細胞が多い

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、高齢者が重症化しやすいことから、加齢によるリスクファクターがあると考えられている。一般的にウイルスに対する免疫応答はT細胞が中心的な役割を果たし、ヘルパーT細胞とキラーT細胞が協調して働くことが、新型コロナウイルスの制御と排除に重要であると考えられている。

 免疫応答の能力は一般的に加齢にともなって徐々に弱くなり、その一方で炎症反応が起こりやすくなることが知られている。ウイルスに感染した細胞をウイルスごと排除できるキラーT細胞は、免疫細胞の中でも感染症の遷延や重篤化を防ぐ上で主要な役割を果たしている。

 そこで研究グループは、新型コロナウイルス未感染者がもともともっている新型コロナウイルス反応性T細胞について、若齢者(20代前半)と高齢者(70代前半)を比較した。

 その結果、新型コロナウイルス反応性T細胞のうち、ヘルパーT細胞については、若齢者と高齢者との間で数や分化段階について大きな違いはみられなかった。また、その大部分がすでに記憶型T細胞になっていたことから、体内にある新型コロナウイルスに反応できるヘルパーT細胞は、過去に感冒コロナウイルスなどへの感染により、交差反応性T細胞として体内に存在していることが分かった。

[左]新型コロナウイルスに反応するヘルパーT細胞の割合と分化段階
[右]老化したT細胞(CD57発現細胞)の割合

出典:京都大学iPS細胞研究所(CiRA)、2021年

 一方、キラーT細胞では、高齢者ではナイーブ型T細胞が若齢者に比べて高齢者で有意に少なく、増殖能を失い最終分化した細胞(TEMRA)や組織傷害をおこす可能性のある老化したT細胞の数が多いことが分かった。

[左]新型コロナウイルスに反応するキラーT細胞の割合と分化段階
[右]老化したT細胞(CD57発現細胞)の割合

出典:京都大学iPS細胞研究所(CiRA)、2021年

サイトメガロウイルスに感染した若齢者は老化したキラーT細胞が多い

 また、新型コロナウイルス反応性T細胞の数や機能は、大きな個人差があることも明らかになった。さらに、サイトメガロウイルスに感染した若齢者では、非感染者と比べて老化したキラーT細胞の数が多くなっていた。

 サイトメガロウイルスなどの潜伏感染ウイルスへの感染が、T細胞の構成を大きく変化させることが知られており、またワクチン効果にも影響するという報告がある。サイトメガロウイルスは健常な多くの人が感染しているウイルスであり、このウイルスに感染しているか否かが、新型コロナウイルスに対するT細胞の応答性にも影響を及ぼす可能性が考えられる。

 今回の研究協力者のうち、高齢者ではすべての人で、若齢者ではおよそ半分の人で、サイトメガロウイルスに感染していた。そこで、若齢者のうち、サイトメガロウイルス非感染者と感染者に分けて、新型コロナウイルス反応性キラーT細胞の割合を調べた。その結果、感染者では、より高齢者に近い傾向、つまりナイーブ型(NP)の割合が低下し、最終分化したT細胞(TEMRA)や老化T細胞(CD57発現細胞)の割合が高くなる傾向がみられた。

 これらの結果から、あらかじめ体内に存在する新型コロナウイルスに反応性をもつナイーブ型のキラーT細胞が加齢にともない少なくなり、老化したキラーT細胞が増えてしまうことが、高齢の患者で重症化しやすい理由のひとつである可能性が考えられる。また、サイトメガロウイルスへの感染の有無が、新型コロナウイルスに対する免疫応答に影響する可能性が示唆された。

[左]若齢者におけるサイトメガロウイルス感染の有無によるキラーT細胞の割合と分化段階
[右]老化したT細胞(CD57発現細胞)の割合

出典:京都大学iPS細胞研究所(CiRA)、2021年

高齢者への治療法やワクチン戦略の参考に

 今回の研究で、高齢者では新型コロナウイルスに対する免疫応答のうち、ヘルパーT細胞が関与する応答(抗体産生など)と比較して、ウイルス感染細胞を直接殺傷し排除するキラーT細胞の機能低下がより顕著であることが明らかとなった。このことから、高齢の患者で重症化しやすい理由のひとつが、体内にあらかじめ存在する新型コロナウイルス反応性キラーT細胞の加齢にともなう変化である可能性がある。

 また、サイトメガロウイルスに感染した若齢者の新型コロナウイルス反応性キラーT細胞の表現型は、非感染の若齢者のそれに比べてより高齢者に近かったことから、サイトメガロウイルスの感染が、COVID-19の症状の著しい個人差を説明する一因となる可能性がある。

 「今回の結果は、新型コロナウイルス感染後の症状の大きな年齢差と個人差を説明できる可能性があり、高齢者への治療法やワクチン戦略の参考になると期待できる」と、研究者は述べている。

京都大学CiRA未来生命科学開拓部門
Aging and CMV infection affect pre-existing SARS-CoV-2-reactive CD8+ T cells in unexposed individuals(Frontiers in Aging 2021年8月10日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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