動脈の硬さが脳小血管病に与える影響は血圧よりも大きい PWVによる「血管年齢」の測定が重要 「動脈スティフネス」を指標とした脳卒中・認知症の予防
「脳小血管病」は脳卒中や認知症などを予測する因子
動脈スティフネスの影響は高血圧より大きい
PWV検査で「血管年齢」を評価
白質病変、微小出血、ラクナ梗塞、脳室周囲腔拡大といった「脳小血管病」は、脳卒中や血管性認知症などの将来の発症を予測する因子であり、加齢や高血圧で増加することが知られている。
また、「動脈スティフネス」は動脈の壁が硬くなり伸展性を失うことでで(動脈壁硬化)、動脈内腔が狭くなる粥状動脈硬化とは区別される。一般的に脈波伝播速度(PWV)検査で評価し、いわゆる「血管年齢」としても用いられている。
琉球大学は今回の研究で、脳卒中を起こしたことのない人の脳ドックデータを用いた解析により、脈波伝播速度(PWV)が高い群は、血圧が高くなくても脳小血管病を多く有し、逆に、PWVが低い群は、血圧が高くても脳小血管病が少ないことを示した。
脳小血管病の重要な危険因子と認識されている高血圧よりも、動脈スティフネスの影響はより大きいことを明らかにし、実臨床での動脈スティフネス測定の意義を明確に示したとしている。
大きな動脈が硬くなり伸展性を失う動脈スティフネスが進行すると、その影響は末梢の微小血管に及び、脳小血管病とも関連するとみられる。
60歳未満の中年期でPWVと脳小血管病の関連は強い
これまで、動脈スティフネスと高血圧は関連が強く、動脈が硬くなると血圧が上昇し、血圧が高くなると動脈はさらに硬くなるという悪循環により脳小管病が生じるという、「動脈スティフネス-高血圧」が知られている。
しかし実臨床では、動脈の硬さの指標である脈波伝播速度(PWV)と血圧との関係で、正常血圧でもPWVが高い症例や、高血圧でもPWVが低い症例もある。
そこで研究グループは今回、血圧と動脈スティフネスの脳小血管病に与える影響の違いを解析した。2013年~2020年に沖縄県健康づくり財団で脳ドックを受け、PWVを測定した脳卒中の既往がない1,894人を対象に、観察的横断研究を行った。
脳MRIで白質病変、微小出血、ラクナ梗塞、拡大血管周囲腔を評価し、いずれかを有する場合を「脳小血管病あり」と評価。正常血圧(120/80mmHg)とPWV(14.63m/s)を基準値とし、対象者を、(1) 血圧/PWV両方低値群、(2) 血圧のみ高値群、(3) PWVのみ高値群、(4) 血圧/PWV両方高値群の4群に分けて<脳小血管病との関連を調べた。
調査した1,894人のうち、38%(718人)が脳小血管病を有していた。脳小血管病の有病率は、(1) 血圧/PWV両方低値群 22%、(2) 血圧のみ高値群 24%、(3) PWVのみ高値群 56%、(4) 血圧/PWV両方高値群 55%で、血圧にかかわらずPWV高値の2群で高いことが分かった。この結果は、年齢・性別・従来の危険因子などで調整した多変量解析でも同様だった。
また、サブグループ解析では、60歳未満の対象者で、とくにPWVと脳小血管病の関連が強いことが分かった。
脳小血管病の重要な危険因子として動脈スティフネスの影響は大きいことが示された
動脈スティフネスをターゲットとした治療戦略が必要
研究は、琉球大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・神経内科学講座の石田明夫准教授と宮城朋氏、琉球大学病院の大屋祐輔病院長、沖縄県健康づくり財団の新里朋子氏の研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke」に掲載された。
「研究結果から、動脈スティフネスが脳小血管病に与える影響は、血圧よりもインパクトが大きい可能性が示された。これまで、高血圧対策が中心であった脳卒中や認知症発症の予防には、動脈スティフネスをターゲットとした新たな治療戦略の開発が必要と考えられる」と、研究グループでは述べている。
「また動脈スティフネスは、とくに比較的若い危険因子の少ない人で脳小血管病を早期に発見できるマーカーになる可能性がある。さらに、動脈スティフネスの治療を行うことで、長期的に脳卒中や認知症の発症を減らせることができる可能性があり、ひいては医療費の削減につながることが考えられる」としている。
研究グループは今後、今回の研究にもとづき、脳卒中や認知症の早期診断法や新たな治療法の開発を進めるとしている。
琉球大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・神経内科学講座
Arterial Stiffness Is Associated With Small Vessel Disease Irrespective of Blood Pressure in Stroke-Free Individuals (Stroke 2023年10月17日)