慢性腎臓病の診断と高精度な予測を可能に AIで腎組織の損傷を定量し予後を予測 eGFRとの高い相関を確認

2025.01.21

 東北大学は、腎組織の病理画像で、主要組織の領域分類と細胞核の検出を高精度に行うAI(人工知能)を開発し、腎組織での間質の繊維化と炎症性細胞浸潤の自動定量を可能にしたと発表した。

 自動定量された間質の繊維化と炎症性細胞浸潤のスコアは、腎機能を示すeGFR(推算糸球体濾過率)と高く相関し、予後予測にも有効であることを明らかにした。

 「開発したAI技術は、腎組織が採取された施設の違いなどの影響にも左右されないことから、実臨床への応用が期待される」と、研究者は述べている。

腎組織の損傷をAIで自動定量 予後の予測精度が向上

 東北大学は、東北大学病院とJCHO仙台病院の慢性腎臓病患者の腎病理画像を用いて、間質繊維化と炎症細胞浸潤を自動定量するAI(人工知能)を開発したと発表した。

 糖尿病や高血圧などを原因とする慢性腎臓病は進行性であり、最終的には腎不全に至ることから、腎生検により採取された組織の病理診断により、早期の治療方針を策定することは重要だ。

 開発したAIでは、腎病理画像を解析し、主要組織である糸球体、尿細管、間質、血管の領域分類と間質中の細胞核の検出により、間質繊維化と炎症性細胞浸潤を自動的に定量する。

腎病理画像から糸球体、尿細管、間質、血管の領域分類と間質中の細胞核を検出するAIを開発
腎病理画像解析AIを学習するための画像データ例とAIによる推定結果の例
(a) 主要組織を領域分類するAIの学習のための局所的な腎病理画像
(b) AIの学習のため(a)の画像の主要組織について人手により領域分類された画像
(c) AIの学習に用いられていない腎病理画像の局所領域
(d) AIによる(c)の画像の領域分類結果
(e) 腎病理画像全体におけるAIの領域分類結果
(f) 間質上の細胞核を検出するAIの学習のため、人手により細胞核がアノテーションされた画像
(g) AIの学習に用いられていない腎病理画像の局所領域を対象としたAIによる細胞核検出結果
出典:東北大学、2025年

腎病理画像から腎組織の間質繊維化と炎症細胞浸潤を自動定量
腎専門医による評価やeGFRと高く相関

 自動定量されたスコアは、腎専門医による評価や腎機能を示す指標であるeGFRと高く相関し、腎組織の損傷を適切に捉えることを確認した。

 研究グループは、開発したAIの学習に、東北大学病院の慢性腎臓病患者10検体とJCHO仙台病院の慢性腎臓病患者10検体の計20検体の腎病理画像の一部領域に対して、人手によりアノテーションしたデータを用いた。

 東北大学病院の慢性腎臓病患者71検体を対象とした検証では、間質線維化と炎症性細胞浸潤の双方で、AIにより自動定量されたスコアは腎専門医の目視による評価と高く相関していることが確認された。

 また、JCHO仙台病院の慢性腎臓病患者167検体を加えた238検体を対象とした検証では、間質線維化と炎症性細胞浸潤の双方で、スコアの増加に対して腎機能を示すeGFRが低下しており、これらスコアが腎組織の損傷を適切に捉えていることが分かった。

 さらに、開発したAIの日本人以外での有効性を検証するため、ジョンズ・ホプキンズ病院提供の慢性腎臓病患者49検体についても検証を行った。その結果、AIにより自動定量された双方のスコアが腎生検時のeGFRと統計的有意に相関しており、日本人を対象とした場合と同様の結果が得られることが確認された。

 研究グループは、eGFRの年低下率の予測で、年齢、性別、腎生検時のeGFR、糖尿病性腎症の罹患の有無に加えて、自動定量されたスコアを考慮した場合、自動定量されたスコアを考慮しない場合について交差検証法を用いて予測精度を比較した。

 その結果、自動定量されたスコアを考慮した場合に予測精度が統計的有意に上がっており、開発したAIの予後予測での有効性が示された。今後、予後予測結果をもとにしたフィードバックによる早期介入の実現を目指すとしている。

AIにより自動定量されたスコアの検証とeGFR年低下量の予測への有効性の評価
(a) AIによる間質繊維化スコアと腎専門医による評価の比較
(b) AIによる炎症細胞浸潤スコアと腎専門医による評価の比較
(c) AIによる間質繊維化スコアと腎生検時のeGFRの比較
(d) AI による炎症細胞浸潤スコアと腎生検時のeGFRの比較
(e) 自動定量されたスコアを考慮した場合のeGFR年低下量の予測値と実測値の比較
(f) 自動定量されたスコアを考慮しない場合のeGFR年低下量の予測値と実測値の比較
(g) AIの学習に用いられていない腎病理画像の局所領域を対象としたAIによる細胞核検出結果
出典:東北大学、2025年

人手により腎組織の病理画像の全体を見るのは困難
AIで慢性腎臓病の病態を解明

 研究は、東北大学大学院医学系研究科腎臓内科学分野の岡本好司氏、鈴木野の香氏、同大学東北メディカル・メガバンク機構の小島要氏、木下賢吾教授、同大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の志藤光介氏らによるもの。研究成果は、「Communications Medicine」に掲載された。

 腎生検により採取された組織の病理診断により、早期の治療方針の策定が可能になる。腎組織は糸球体、尿細管、周辺組織である間質と血管から主に構成され、病理診断では糸球体の硬化や尿細管の損傷による萎縮とそれにともなう間質の繊維化が評価される。尿細管の損傷につながる炎症性細胞浸潤の評価も重要だ。

 「近年、AIの飛躍的な進歩により医療分野での画像解析技術は急速に発展しています。一方、腎組織をはじめとする組織の病理画像は縦横1万ピクセル以上の巨大な画像であり、人手により画像全体について領域分類することは困難です」と、研究者は述べている。

 「今回開発したAIは病理画像の定量的解析から慢性腎臓病の診断とより高精度な予後予測を可能とするものであり、治療薬の有効性の判断でも重要な役割を果たすことが期待されます。また、本研究は専門医の目視でなされてきた指標が自動定量の対象となりますが、病理組織には目視の評価では見過ごされていた情報が含まれていると考えられます」。

 「本研究の発展により、病理画像の形態学的情報を定量化し、これまでにない評価指標の策定を進めることで新たな発見が期待されます。現在、東北大学病院腎臓・高血圧内科では宮城県内の主要な施設から受け入れた病理検体について病理所見の返却を行っています。今後、電子病理画像データであるバーチャルスライドを用いた報告への切り替えと、AIにより自動定量されたスコアを診断結果に添付することで、臨床医・患者への成果の還元を目指しています」としている。

東北大学大学院医学系研究科 腎臓内科学分野
Deep learning-based histopathological assessment of tubulo-interstitial injury in chronic kidney diseases (Communications Medicine 2025年1月5日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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