軽度認知障害(MCI)患者が対象の日本初の医師主導治験を実施 脳内のβアミロイドの排出を促進させた可能性 国循など
日本初の治験即応コホートが確立 抗血小板薬「シロスタゾール」の抗認知症効果を探求
国立循環器病研究センターなどは、軽度認知障害(MCI)患者を対象とした日本初の多施設共同プラセボ対照ランダム化医師主導治験である「軽度認知障害患者に対するシロスタゾール療法の臨床効果ならびに安全性に関する医師主導治験(COMCID研究)」の成果を発表した。
抗血小板薬「シロスタゾール」は、血液の中の血小板の働きを抑え、血液が固まって血管がつまることを防ぎ、血栓の形成を予防する薬。同薬には、血管を拡張させ脳血流を上昇させる作用があることも知られている。
国循脳神経内科の猪原匡史部長らのグループはこれまで、シロスタゾールが、血管にも直接作用することで、認知症の多くの脳で蓄積がみられる老廃物であるβアミロイドを脳外に流し去る作用を有することを動物実験で見出していた。
そこで研究グループは、MCI患者を対象とした全国規模、多施設共同での「COMCID研究」を2015年5月より開始した。軽度認知障害(MCI)のある成人患者159人を対象に、シロスタゾールもしくはプラセボを96週投与した。
その結果、シロスタゾールがMCI患者に投与した際の安全性は示されたものの、MCIから認知症への進行を予防する有効性は示されなかった。
しかし、シロスタゾールを投与した患者では、プラセボを投与した患者に比べ、血液中のアルブミンと認知症の多くの脳で蓄積がみられる老廃物、βアミロイドの複合体「アルブミン-Aβ複合体」の濃度が、治療前に比べ増加する傾向が示された。これにより、シロスタゾールが脳内のβアミロイドを、血液中に排出することを促進させた可能性が示唆された。これは過去の動物実験の結果とも符合しているとしている。
研究グループは今後、「シロスタゾールが有効である一群(シロスタゾールレスポンダー)の同定を進め、特定の患者でのシロスタゾールの抗認知症効果を探求していく予定」としている。
また今回、研究を完遂したことにより、世界的にも先端的な認知障害の治験即応コホートが確立し、直ちに治験を行える体制が整ったとしている。これまで日本国内では、MCI患者を対象とした多施設共同プラセボ対照ランダム化医師主導治験は皆無だった。
研究グループはすでに、この治験即応コホートを用いる次の医薬品の治験の準備を開始しているとしている。
研究は、国立循環器病研究センター 脳神経内科の猪原匡史部長、脳神経内科の齊藤聡氏、データサイエンス部の山本晴子部長を中心とする研究グループが、LHS研究所の福島雅典・代表理事(京都大学名誉教授)、神戸医療産業都市推進機構の小島伸介チームリーダーらと共同で行ったもの。研究成果は、「JAMA Network Open」に掲載された。
国立循環器病研究センター 脳神経内科
Efficacy and safety of cilostazol in mild cognitive impairment: A randomized clinical trial (JAMA Network Open 2023年12月4日)