[高血圧・糖尿病・脂質異常症]を併発したメタボが32% 高額医療費患者の95%超がマルチモビディティ 169万人の全国データを解析
協会けんぽの高額医療費集団169万人超のデータを解析
医療費を増加させている原因のひとつとして、個人に2つ以上の慢性疾患が併存している状態を示す「マルチモビディティ」が近年注目されている。
慶應義塾大学・東京医科歯科大学・川崎医科大学・全国健康保険協会(協会けんぽ)は、日本の就労世代の高額医療費集団に特徴的なマルチモビディティのパターンの解明に取り組んだ。
協会けんぽは、約4,000万人が加入している日本最大の医療保険者で、加入者の匿名化された健診・レセプトデータを分析できる環境を、外部有識者に提供する委託研究事業を、2020年度より実施している。
研究グループは今回、2015年度に協会けんぽに加入していた18歳以上65歳未満の被保険者1,698万9,029人のうち、高額医療費集団169万8,902人を解析対象とし、マルチモビディティのパターンを明らかにした。協会けんぽの全国規模のデータを用いた解析は今回がはじめてとなる。
高額医療費集団の95.6%の人がマルチモビディティ
メタボリックシンドロームが31.8%を占める
その結果、年間医療費が上位10%の高額医療費集団は、医療費全体の6割を占め、さらに95.6%の人がマルチモビディティに該当することが分かった。
さらに、高血圧・糖尿病・脂質異常症を同時に併発した広義のメタボリックシンドローム(MetS)が31.8%を占め、合計医療費は28.6%を占めることが明らかになった。1人あたりの医療費は、腎臓病のパターンがもっとも高額だった。
性別・年代別にみると、男性では30代でMetSのパターンに分類される割合が20%を超え、その割合は50代以降では半数以上になった。女性では40代までは周産期疾患や月経前症候群などを中心とする女性特有のパターンに分類される者が半数近くを占めたが、50代以降ではMetSや運動器疾患のパターンに分類される者が増えた。
研究グループは今回、高額医療費集団に特徴的なマルチモビディティ・パターンの検討に、データの特徴を隠れたグループやパターンにより分類する潜在クラス分析という手法を用い、出現頻度の高い68疾病にもとづき30パターンに分類した。
さらに、高血圧・糖尿病・脂質異常症を同時に併発した広義のMetSを7つのパターンに分類。
2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症の3因子のみ | |
MetS クラス 2 | [上記3因子に含め]感染症、上気道・下気道慢性炎症、口腔疾患、胃腸管疾患、運動器疾患 |
MetS クラス 3 | [上記3因子に含め]運動障害 |
MetS クラス 4 | [上記3因子に含め]肝臓疾患、腎臓疾患 |
MetS クラス 5 | [上記3因子に含め]心血管疾患 |
MetS クラス 6 | [上記3因子に含め]代謝性疾患、心血管疾患、胃腸疾患、運動器疾患 |
MetS クラス 7 | [上記3因子に含め]悪性腫瘍を含む複雑な症状 |
腎臓病、MetS[クラス 1、クラス 5・クラス 6]は年間総医療費がとくに多い 7種類のMetSのパターンでの各疾病の有病率 性別・年代別にみたマルチモビディティ・パターンの内訳
メタボリックシンドロームの重症化予防の重要性を示唆
研究は、慶應義塾大学スポーツ医学研究センターの勝川史憲教授、同大学大学院健康マネジメント研究科の山内慶太教授、東京医科歯科大学M&Dデータ科学センターの髙橋邦彦教授、川崎医科大学医学部の神田英一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLoS One」に発表された。
「今回の研究は、患者数・医療費ともに多いMetSの重症化を予防することの重要性をあらためて示唆するものだ」と、研究者は述べている。
「今回解析に用いたレセプト病名は必ずしも実際の病態を反映しないケースもあるため、結果の解釈については注意が必要だが、将来的な医療費を抑制する観点では就労世代であっても、マルチモビディティの予防が重要であることが示唆された」。
「複雑な病態であるマルチモビディティを理解する一助となり、今後の健康施策で重点をおくべき病態を検討するうえで役立つことが期待される」としている。
慶應義塾大学スポーツ医学研究センター
全国健康保険協会 (協会けんぽ)
Multimorbidity patterns in the working age population with the top 10% medical cost from exhaustive insurance claims data of Japan Health Insurance Association (PLOS ONE 2023年9月28日)