医療・保健サービス研究で「患者・市民参画 (PPI)」の可能性や課題が明らかに 多様な立場でPPIのあり方を模索

2022.06.07
 医療・福祉サービスの発展に、患者や家族といっしょに研究に取り組む「患者・市民参画 (PPI)」が注目されている。

 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は、地域精神保健サービスの研究でのPPIの可能性や課題を検証した研究を発表した。

 「日本でPPIが注目されるようになったのはごく最近です。研究の知見は、他の研究領域にも当てはまる点もあると予想されます」としている。

医療・福祉サービスの研究に当事者や家族がいっしょに取り組むPPI

 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は、地域精神保健サービスの研究での「患者・市民参画 (PPI:patient and public involvement)」の可能性や課題を検証した研究を発表した。

 近年、医療・福祉サービスの発展には、患者や当事者、家族といっしょに研究に取り組むことが欠かせないとされている。そのような活動は、PPIと呼ばれ、国際的にも注目されている。

 一方で、各国の地域精神保健サービス(または精神保健福祉サービス)研究や日本の臨床研究は、多様な立場からPPIのあり方を問う研究自体が乏しい状況にある。

 そこで、研究グループは、患者・家族・支援者・行政職員・研究者を対象に、地域精神保健サービス研究でのPPIに対する見解を聞くフォーカスグループインタビューを実施した。

 フォーカスグループインタビューは、特定のテーマについての意見や認識を収集するために、複数の対象者を1つに集め(グループとして集め)、テーマについてグループ内で話しあう形式のインタビュー調査。通常、ファシリテーターと呼ばれる司会役が、グループの話し合いを進行する。

フォーカスグループインタビューの内容を4つの領域に整理

 その結果、(1)「PPIに対する肯定的な見解・期待」、(2)「PPIに関する全般的不安」、(3)「PPIの実施に向けた具体的な課題」、(4)「PPIの実施に向けたアプローチ」が抽出された。

PPIに対する肯定的な見解・期待

  • PPIに取り組むことに対する前向きな視点
  • 研究や支援の質・文化の改善
  • 成長する機会となることへの期待
とくに、支援の枠組みよりも、研究の枠組みのほうが協働しやすいとの提案もあった。

PPIに関する全般的不安

  • 精神科や日本の文脈でのPPIへの過度な期待への懸念
  • 研究協働の負担・抵抗感についての懸念
とくに、形式的にPPIを装う研究の増加やPPIによる研究でも社会は変えられないことへの不安も報告された。

研究機関のシステムの問題

  • 大学や学術団体の現行システムの問題(例:患者の雇用)
  • 協働する患者・家族の選出に関する問題
  • 関係性構築と意見集約に関するスキルの問題
  • PPIについての不明瞭な基準の問題
とくに、患者・家族と研究者との対等な関係構築の困難性については、すべての属性グループが指摘していた。

PPIの実施に向けたアプローチ

  • 相互理解を促すソフト面の工夫とシステムなどハード面の改革
  • 相互理解を促進する言葉の選択・雰囲気作りの工夫(平易や言葉の使用など)
  • 実装するための評価システムや倫理審査、ガイドラインの開発(評価システム・倫理審査の見直し)

患者や家族も加わることで医療・福祉サービスはもっと良くなる

 患者・市民参画(PPI)は、「市民に対して・について・のための研究ではなく、市民といっしょにあるいは市民によって行われる研究」と定義されている。

 過去20年間、PPIに関する研究は世界中で取り組まれてきた。しかし、地域精神保健サービス研究という枠組みでのPPIに関する研究、とくに多様な立場にとって望ましいPPIのあり方を模索する研究は、国際的にも限られている。また、日本では臨床研究でのPPIに関する研究自体が乏しい。

 研究グループは今回の研究で、フォーカスグループインタビューを、2020年2月9日に実施した。インタビューには、患者6人、家族5人、支援者7人、行政職員5人、研究者14人が参加した。

 インタビュー内容をすべて録音し、その逐語録をもとに質的分析を実施した。なお、研究自体もテーマ設定やプロトコル作成から分析・論文執筆にいたるすべての段階でPPIを取り入れた。

 研究は、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部の山口創生室長らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Health Expectations」にオンライン掲載された。

 「今日では、医療サービスや福祉サービス、公的機関のサービスなどさまざまな関係者が協力して、地域精神保健サービスの発展に取り組んでいます。本研究では、そこに当事者や家族も加わることで、サービスを利用した経験のある者の視点をとりいれながら、実践課題の明確化や研究の質や文化の改善がはかられ、研究知見がより有用なものになる可能性が示されました」と、研究グループでは述べている。

 「一方で、研究知見の政策応用がなければ、研究が社会に還元されないこと、また現行の学術システムでは当事者・家族が研究に参加しにくいこと、当事者・家族と研究者とのパートナーシップの困難性など、実際のPPIの実装・普及には課題が多いことも示唆されました」。

 「日本でPPIが注目されるようになったのはごく最近です。本研究は、"地域精神保健サービス研究"という場面に限った調査でしたが、本研究の知見の一部は、他の研究領域にも当てはまる点もあると予想されます。本研究の知見や方法論をもとに、PPIおよび関連する研究がさまざまな領域で広がることが期待されます」としている。

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部
Multiple stakeholders’ perspectives on patient and public involvement in community mental health services research: a qualitative analysis (Heatlh Expectations 2022年6月3日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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