「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」新たな診断法・評価法を開発 PET検査で可視化するのにはじめて成功 QST
グルタミンPETはNASHを画像診断する方法として有用 治療効果の評価にも
肥満性糖尿病や動脈硬化症でもグルタミン代謝の異常が
量子科学技術研究開発機構(QST)は、「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」の進行や治療薬剤の効果をPET検査ではじめて可視化することに成功し、身体に負担が少ない非侵襲的のPET検査が、NASHの診断法や治療の評価法として有用であることを明らかにした。
NASHでは、肝臓でグルタミン代謝が亢進しており、グルタミン代謝酵素の一種であるGLS1(グルタミナーゼ1)遺伝子が高発現していることが知られている。
また、東京大学医科学研究所らの研究グループは、GLS1を阻害する薬剤の投与によりNASHの症状が改善したことを報告しており、NASHを含むさまざまな疾患でGLS1阻害薬を用いた治療に関する臨床研究の実施を目指している。
そこで研究グループは、PET薬剤である[11C]グルタミンの将来的な臨床での利用を見据え、ヒトに投与可能な品質基準で、[11C]グルタミンPET薬剤を自動合成する技術を開発した。さらに今回、自動合成した[11C]グルタミンを用いて、NASHの診断や、グルタミン代謝を標的とした薬剤の効果の評価での有用性を検討した。
肝臓での[11C]グルタミンPET画像GLS1阻害薬による治療群と無治療群のNASHモデルマウスに対して、[11C]グルタミンPET撮像を行い、肝臓でのPET薬剤の放射能濃度とGLS1遺伝子の発現量およびNASH病態の進行を反映する病理スコアを比較した。
その結果、治療群では無治療群に比べて、放射能濃度、遺伝子の発現量、病理スコアいずれも低くなり、3者間にそれぞれ強い関連性があることが示された。
「[11C]グルタミンPETはNASHを画像で診断する方法として、またNASH治療薬の効果の評価法として臨床での利用が期待される」と、研究者は述べている。
また、「グルタミン代謝の異常が原因とされる疾患には、肥満性糖尿病や動脈硬化症などもあり、これら疾患に対するグルタミン代謝を標的とした治療薬の開発にも有用な可能性がある」としている。
研究は、量子科学技術研究開発機構(QST) 量子医科学研究所 先進核医学基盤研究部の謝琳主幹研究員らによるもの。研究成果は、「Acta Pharmaceutica Sinica B」にオンライン掲載された。
非アルコール性脂肪性肝炎の進行や治療効果の可視化に成功
日本では、肝がんは罹患数7位、死亡数5位となっている。肝がんの病因はこれまで、主に肝炎ウイルスの感染だったが、生活スタイルの欧米化などの影響で、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を介した肝がんの割合が増えている。日本ではNASHの罹患数は人口の約3~5%、400万人と推定され、そのうち約5%が10年で肝がんに進行する。
NASHの唯一の確定診断法は肝生検だが、患者への負担が大きく容易には実施できないため、より負担の少ない簡便な診断方法が求められている。また、主な治療法は食事および運動療法であり、有効な薬物療法がないため、世界中で創薬や臨床試験が行われており、効果を客観的に定量的に評価する方法も必要とされている。
研究グループは今回、グルタミン代謝を捉えるPET薬剤[11C]グルタミンを、日本核医学会が定めたPET薬剤製造基準に準拠する品質で、簡便に製造する技術の確立と、[11C]グルタミンPETによるNASHの診断、およびグルタミン代謝を標的とした薬剤の効果の評価での有用性を明らかにすることを目指した。
まず、サイクロトロンより製造された[11C]二酸化炭素(11CO2)を出発原料として製造した[11C]シアン(H11CN)を複数工程で反応させ、[11C]グルタミンを合成した。これらの合成過程は、独自に開発した自動合成装置内で進み、[11C]グルタミンを安定した収率と収量で製造できることを確認した。また、この自動合成装置を用いて製造することにより、PET薬剤製造基準に準拠した製造環境で品質保証された薬剤として、ヒトへの投与も可能となる。
マウスモデルの8週経過後の肝臓の組織を観察すると、メチオニン・コリン欠乏食を与えたマウス(NASHマウス)は、通常飼料を与えたマウス(通常マウス)に比べて、脂肪の蓄積や、炎症、線維化が見られ、NASHを発症していることが確認された。
次に、[11C]グルタミンPETがNASHの診断や、GLS1阻害薬による治療効果の評価で有用かを検討した。8週後の通常マウス、NASHマウス、およびGLS1阻害薬(BPTES)を投与したNASH治療マウスを用いて、[11C]グルタミンPET、病理組織検査、およびGLS1遺伝子発現解析を行った。
その結果、肝臓での放射能濃度は、NASHマウスが最も高く、次いでNASH治療マウス、通常マウスとなった。病理組織検査および免疫染色によるGLS1遺伝子発現解析では、NASHマウスに比べて、NASH治療マウスでは蓄積した脂肪の減少や、炎症と繊維化の改善が認められ、GLS1遺伝子の発現も低下していた。
肝臓での放射能濃度の結果と、GLS1遺伝子の発現量、および病理組織検査の結果を比較したところ、肝臓での放射能濃度がGLS1遺伝子の発現量、NASH病態を反映する病理スコアそれぞれと正比例の相関関係にあることが分かった。
「[11C]グルタミンPETは、NASHを画像で診断する方法として、またグルタミン代謝などを標的としたNASH治療薬の効果の評価法として、診断での利用や、NASH治療薬の開発への応用が期待される」と、研究グループでは述べている。
「グルタミン代謝を標的とした薬剤の治療効果を評価する臨床試験では、治療効果を予測する方法として全身のグルタミン代謝を捉えることが重要視されている。グルタミン代謝を標的とした、がんに対する治療薬剤の臨床研究もいくつか進められており、[11C]グルタミンPETは、そうした薬剤が全身のグルタミン代謝に与える影響を評価する方法としても利用できる可能性がある」としている。
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構
L-[5-11C]glutamine PET imaging noninvasively tracks dynamic responses of glutaminolysis in non-alcoholic steatohepatitis (Acta Pharmaceutica Sinica B 2024年7月31日)