慢性腎臓病(CKD)の重症化予防 かかりつけ医と専門医による診療連携と生活習慣指導は効果があることを証明
CKDに対する生活習慣改善の指導は長期の診療継続と重症化予防の効果がある
筑波大学の研究グループは、2008年から3年半にわたり、全国49医師会のかかりつけ医に通院する40歳以上75歳未満の慢性腎臓病(CKD)患者2,379人について、医師会ごとに、かかりつけ医による通常診療群と、専門医による定期的なCKD診療プログラムを用いた生活指導介入群に無作為に分け、介入の効果を調査した。
その期間では、重症化する患者は少なく、腎代替療法導入や心血管病発生などの差を捉えることはできなかった。そこで今回、観察期間を10年間まで延長し、長期的な介入の効果を検証した。
その結果、心血管病発症、腎代替療法導入、腎機能50%低下を複合した評価では、生活指導介入群の方が通常診療群よりもわずかに低い傾向がみられた。詳しく分析すると、生活指導介入群では、心血管病の発症が有意に抑えられるとともに、腎機能低下の年間進行速度が、腎機能指標eGFR45以上60未満(正常値90以上)の患者で有意に抑制されており、かかりつけ医と腎臓専門医との診療連携も高率に行われていた。
研究により、CKD患者に対する定期的・長期的な生活指導介入が、行動変容や生活習慣の改善、および、かかりつけ医と腎臓専門医の診療連携を促し、重症化予防をもたらすことが明らかになった。
CKDの重症化を予防するために、通常のかかりつけ医における外来診療に加え、医師、看護師、管理栄養士などによる定期的な生活指導や食事指導を含む、診療連携強化指導が有効であると考えられるが、その具体的な効果は、これまで検証されていなかった。
研究は、筑波大学医学医療系腎臓内科学/スマートウェルネスシティ政策開発研究センターの山縣邦弘教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nephrology Dialysis Transplantation」に掲載された。
クラスター無作為化「FROM-J」研究の長期観察
10年の診療連携強化と生活指導介入により、腎機能低下の年間進行速度は、eGFR45以上60未満の患者で有意に抑制
研究グループは、多施設長期コホート調査「FROM-J」として、2008年より3年半にわたって、全国49地区医師会のかかりつけ医557施設に通院する40歳以上75歳未満のCKD患者2,379人を、地区医師会(クラスター)ごとに、通常診療群と診療連携強化生活指導介入群(以下、生活指導介入群)の2種類の診療方法に無作為に割り付け、どちらが重症化予防に効果があるかを検証した。
いずれの診療方法も、かかりつけ医がCKD診療ガイドに準じた診療を行い、生活指導介入群にはさらに、受診勧奨や管理栄養士による3ヵ月ごとの生活・食事指導、かかりつけ医への検査結果のフィードバック、必要に応じた専門医への紹介勧奨を含む、定期的なCKD診療プログラムを実施した。
3年半の介入期間で、介入群では受診中断が減ること、専門医への紹介・逆紹介が良好に行われること、腎機能の悪化が有意に抑制されることは証明されたが、脳卒中、末期慢性腎不全への進行などには差はみられなかった。
そこで研究グループは、その後の予後を研究開始から10年間に延長して追跡調査した。今回の検討では、心血管病の発症、腎代替療法の導入、推算糸球体濾過値(eGFR)の50%低下を複合した結果(複合エンドポイント)を主要評価項目とした。
その結果、生活指導介入群では通常診療群より低い傾向はみられるものの、有意差(有意確率p=0.051)は認められなかった。そこで、これを項目ごとに比較したところ、腎代替療法導入とeGFR50%低下については、いずれも有意差はなかったものの、心血管病の発症は、生活指導介入群で有意に抑えられていた(p=0.001)。
生活指導介入群の診療支援が、心血管病発症を回避するための治療必要数(Number needed to treat:NNT)は24.4だった。これは通常の診療に加え、生活指導介入群の診療支援を24.4人が受けると心血管病発症を1人回避できるということを意味する。
また、腎機能低下の年間進行速度は、eGFRが45以上60未満(正常値90以上)の患者で抑制されること、さららに、かかりつけ医と腎臓専門医との診療連携が、10年間を通算して、生活指導介入群で高率で行われることなど、生活指導介入群では有意な効果がみられた。
⽣活指導介⼊群では、複合エンドポイントでは少ない傾向があり、とくに⼼⾎管病の発症は有意に減少が認められた。
費用効果は14万5,593円/QALY 15年目には4,496人の新規透析導入患者を減少
今回の研究により、CKDの治療法として、通常の薬物療法に加え、かかりつけ医のもとで定期的なCKD診療プログラムを継続的に実施することで、患者の生活習慣の改善がはかられるとともに、かかりつけ医と腎臓専門医による診療連携が進み、CKDの重症化予防につながることが明らかになった。
研究グループは、こうした長期的な介入の医療経済分析についても検討した。費用効果分析では14万5,593円/QALYと、日本で評価基準の閾値となっている500万円/QALYに比べ、医療経済的に極めて有用であることが示された。QALYは、⽣存年数をQOL(⽣活の質)の値で重み付けしたもの。
さらに、この介入を日本全国で継続した場合、10年目で医療費の追加コストが回収され、15年目には4,496人の新規透析導入患者の減少が見込めることが予想された。
「今後、介入プログラムが効果的に作用した部分を解析し、さらなるCKD重症化予防策を明らかにする予定です。また、より多くの施設でこのような介入プログラムが実践できる枠組みの構築が求められます」と、研究グループでは述べている。
筑波⼤学医学医療系腎臓内科学
筑波⼤学スマートウェルネスシティ政策開発研究センター
Long-term Effectiveness of a Primary Care Practice Facilitation Program for Chronic Kidney Disease Management: An Extended Follow-up of a Cluster-Randomized FROM-J Study (Nephrology Dialysis Transplantation 2022年2⽉23⽇)