【新型コロナ】オミクロン株に対する抗体薬と抗ウイルス薬の効果を検証 BA.5に対しても有効
オミクロン株 BA.2.12.1、BA.4、BA.5系統に対する治療薬の効果を検証
東京大学医科学研究所は、臨床検体から分離した新型コロナウイルス・オミクロン株 BA.2.12.1、BA.4、BA.5系統に対する治療薬の効果を検証し、その結果を発表した。
国内では、カシリビマブ・イムデビマブ、ソトロビマブの抗体薬、あるいはレムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビルの抗ウイルス薬が、新型コロナに対する治療薬として承認を受けている。
実用化されたあるいは開発中の新型コロナに対する抗体薬は、ウイルス粒子表面にあるスパイクタンパク質を標的としており、その機能を失わせる(中和する)ことを目的としている。また、抗ウイルス薬は、細胞内に侵入したウイルスの増殖を阻害する作用がある。
新型コロナウイルスのオミクロン株は、5つの系統(BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5)に分類される。国内では7月以降、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが急速に進んでいる。
BA.2系統は、そのスパイクタンパク質に少なくとも31ヵ所の変異を有し、BA.2.12.1系統のスパイクタンパク質は、それに加えて2ヵ所の変異を有する。BA.4系統とBA.5系統は、スパイクタンパク質のアミノ酸配列が同一で、BA.2系統と共通する30ヵ所の変異に加えて4ヵ所の変異を有する。
国内では、カシリビマブ・イムデビマブ(製品名:ロナプリーブ注射液セット)、ソトロビマブ(製品名:ゼビュディ点滴静注液)の抗体薬、レムデシビル(製品名:ベクルリー点滴静注液)、モルヌピラビル(製品名:ラゲブリオ)、ニルマトレルビル・リトナビル(製品名:パキロビッドパック)の抗ウイルス薬が、新型コロナに対する治療薬として承認を受けている。
しかし、これらの治療薬がオミクロン株のBA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統に対して有効かどうかについては、明らかではなかった。
ベブテロビマブは各系統のいずれに対しても高い中和活性を示す
3種類の抗ウイルス薬はすべてが増殖を効果的に抑制
研究グループはまず、4種類の抗体薬[ソトロビマブ、ベブテロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ]がオミクロン株の各系統の感染を阻害(中和活性)するかどうかを調べた。中和活性は、抗体がもつウイルスの細胞への感染を阻害する機能。
BA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統に対する中和活性は、ソトロビマブではどの系統に対しても著しく低いことが分かった。カシリビマブ・イムデビマブとチキサゲビマブ・シルガビマブは、いずれに対しても中和活性を維持していることも判明した。
しかし、カシリビマブ・イムデビマブの各系統に対する効果は、従来株(中国武漢由来の株)に対する効果と比較すると著しく低いことがわかった。チキサゲビマブ・シルガビマブの効果も従来株に対する効果と比較すると低下していた。
一方、ベブテロビマブは各系統のいずれに対しても高い中和活性を示し、その効果は、従来株に対するそれと同等であることが分かった。
続いて、3種類の抗ウイルス薬[レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル]の効果を解析した。その結果、すべての薬剤がBA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統の増殖を効果的に抑制することが分かった。
研究は、東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らと国立感染症研究所、国立国際医療研究センターが共同で行ったもの。研究成果は、「New England Journal of Medicine(NEJM)」にオンライン掲載された。
「得られた成果は、医療現場での適切な新型コロナ治療薬の選択に役立つだけでなく、オミクロン株の各系統のリスク評価など、行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となります」と、研究グループは述べている。
東京大学医科学研究所ウイルス感染部門
Efficacy of Antibodies and Antiviral Drugs against Omicron BA.2.12.1, BA.4, and BA.5 Subvariants (New England Journal of Medicine 2022年7月20日)