小胞体ストレスを軽減させβ細胞の細胞死やインスリン分泌機能を改善 新しいタイプの糖尿病治療薬に期待

2022.02.22
 福山大学と徳島大学は、小胞体ストレスを軽減させ、β細胞の細胞死やインスリン分泌機能を改善する新しい化合物「KM04794」を同定するのに成功した。

 膵β細胞のインスリン分泌機能について検討したところ、KM04794は膵β細胞でインスリンの合成を上昇させて、それにともなってインスリン分泌を増加させることが分かった。さらに、小胞体ストレスによるインスリン分泌機能の低下を改善させる働きをすることを確かめた。

 「これまでの小胞体ストレスを標的とした化合物と比べて高いインスリン合成促進作用をもつユニークな化合物であり、新しいタイプの糖尿病治療薬の開発につながる可能性がある」としている。

小胞体ストレスが膵β細胞の細胞死とインスリン分泌能力の低下の原因に

 インスリンは、膵臓のランゲルハンス島にある膵β細胞から血液中に分泌されるが、2型糖尿病では膵β細胞の減少とインスリン分泌能力の低下によりインスリンが不足する。膵β細胞を標的とした糖尿病治療薬は多く上市されているが、患者によりは効果が不十分であったり、長期投与により効果が消失したりするなどの課題もある。

 一方、ほとんどすべての細胞には、小胞体と呼ばれる細胞外に分泌されるタンパク質の産生工場ともいうべき細胞内の区画(細胞内小器官)があり、インスリンも膵β細胞内の小胞体で合成される。

 インスリンが正常に分泌されてその機能を発揮するためには、小胞体内での正確な合成が不可欠だ。2型糖尿病ではインスリンの作用不足を補うために、膵β細胞でインスリンがより多く合成されるが、それは正確に合成できなかった不良インスリン(折り畳み不全インスリン)の小胞体内への蓄積を引き起こし、小胞体ストレスと呼ばれる細胞へのストレスが生じる。

 小胞体ストレスは、膵β細胞の減少(細胞死)とインスリン分泌能力の低下を引き起こす主因のひとつと考えられており、小胞体ストレスを標的とした糖尿病治療薬の開発が進められている。

膵β細胞のインスリン合成と分泌機能を改善する新規化合物を発見

出典:徳島大学、2022年

 福山大学と徳島大学による今回の研究は、小胞体ストレスを軽減させ、β細胞の細胞死やインスリン分泌機能を改善する新しい化合物を同定することを目指して行われた。

 研究グループははまず、小胞体ストレスにより細胞に引き起こされる小胞体ストレス応答を簡便に測定する細胞ベースのスクリーニング法を確立した。これまでの成果で見出されていた小胞体ストレスと関連のある化合物群から、膵β細胞の小胞体ストレスを緩和してインスリン合成と分泌機能を改善する新規の化合物「KM04794」を同定した。

 小胞体ストレスは2型糖尿病での膵β細胞の減少と機能低下の主要な要因のひとつと考えられるが、KM04794は、小胞体ストレスを緩和して細胞死を抑制することを確認した。また、このKM04794はインスリンを含めた折り畳み不全タンパク質を減少させることが示唆された。

 次に、膵β細胞のインスリン分泌機能について検討したところ、KM04794は膵β細胞でインスリンの合成を上昇させて、それにともなってインスリン分泌を増加させることが分かった。さらに、小胞体ストレスによるインスリン分泌機能の低下を改善させる働きをすることを確かめた。

 KM04794がどのようにして小胞体ストレスを緩和しているかを明らかにするために、ベンゾフェノン基とアルキン基をもつKM04794(KM04794-probe)を合成した。このKM04794-probeを用いることで、光照射するとベンゾフェノン基が標的タンパク質と共有結合を形成でき、さらにクリック反応によりアルキン基にビオチンを付加するとストレプトアビジンビーズでプローブに結合するタンパク質を回収することがでる。さらに、質量分析器を用いて解析することで、回収したKM04794の標的タンパク質を同定することができる。

 この実験の結果、KM04794と結合しているタンパク質は小胞体に存在するものがもっとも多く、KM04794が細胞内の小胞体に集積して作用していることが示唆された。なかでも小胞体にてタンパク質の正確な合成を補助するBiPと呼ばれるタンパク質と多く結合し、KM04794がBiPの機能を増強している可能性が示された。

 研究により、あらためて2型糖尿病に対する新規治療薬として小胞体ストレスを標的とした化合物が有望であることが示された。しかし、現在までの検討の結果、KM04794は生体では十分な効果を発揮しないため今後、化合物の改良など開発を進めていくことが重要となるとしている。

 研究は、福山大学薬学部生体有機化学研究室の重永章教授、徳島大学大学院医歯薬学研究部機能分子合成薬学分野の大髙章教授、徳島大学先端酵素学研究所の齋尾智英教授、小迫英尊教授らが共同で行ったもの。

 「KM04794は、これまでの小胞体ストレスを標的とした化合物と比べて高いインスリン合成促進作用をもつユニークな化合物であり、さらなる研究によりその機構の全容が明らかになれば、新しいタイプの糖尿病治療薬の開発につながる可能性があります」と、研究グループでは述べている。

福山大学薬学部生体有機化学研究室
徳島大学大学院医歯薬学研究部機能分子合成薬学分野
dentification of an endoplasmic reticulum proteostasis modulator that enhances insulin production in pancreaticβcells (Cell Chemical Biology 2022年2月9日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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