メトホルミンが血中の金属濃度に影響 血糖降下や合併症予防への関連を示唆 神戸大学

2025.09.24
神戸大学の研究グループは、メトホルミンが血液中の金属濃度に影響を及ぼすことを、ヒトを対象とした研究により初めて明らかにしたと発表した。本研究により、メトホルミンによる金属濃度への影響が血糖降下作用や合併症予防と関連している可能性が示唆された。

 銅・鉄・亜鉛などの金属は「必須微量元素」と呼ばれ、代謝や細胞修復、免疫機能などに重要な役割を果たしている。これらの金属は過剰でも不足でも健康に悪影響を及ぼすため、体内ではその濃度が厳密に調整されている。しかし糖尿病患者では、この金属バランスが崩れ、銅や鉄の血中濃度が上昇することが報告されている。

 メトホルミンは世界で最も広く使用されている糖尿病治療薬であり、血糖降下作用に加え、抗炎症作用や動脈硬化の予防効果、抗腫瘍作用などが報告されている。その一方で、これらの作用の背景にある分子メカニズムは明らかでなく、現在も世界中で研究が行われている。化学的には、メトホルミンは特定の金属イオンと結合する「金属キレート作用」を持つことが半世紀以上前から知られていたが、この性質が実際に薬の薬理作用にどう関与しているのか、あるいはヒトの体内における金属濃度に影響を及ぼしているのかについては、これまで明確な報告はなかった。そこで本研究では、メトホルミンを服用している糖尿病患者と、服用していない患者との間で、血液中の金属濃度に違いがあるかどうかが比較・検討された。

 研究グループは、神戸大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌内科に通院する2型糖尿病患者のうち、メトホルミンを6か月以上服用している93人と、服用していない96人を対象とし、血液中の銅・鉄・亜鉛の濃度と関連指標を比較した。その結果、メトホルミン服用者では銅と鉄の血中濃度が低く、亜鉛の濃度が高いことが明らかになった。年齢、性別、BMI、血糖コントロール状態、腎機能など、金属濃度に影響しうる複数の要因を統計的に調整した後も、この傾向は有意に保たれた。

 これまでの研究により、血中の銅濃度が高いと血糖値の上昇や糖尿病合併症の発症リスクが高まり、また鉄濃度の上昇や亜鉛不足も血糖コントロール悪化と関連することが報告されている。本研究結果は、メトホルミンが鉄や銅の濃度を下げ、亜鉛の濃度を高めることで、血糖値を改善している可能性を示唆するもので、さらに金属濃度の変化は炎症や動脈硬化の発症にも関与することから、メトホルミンが糖尿病合併症予防にも金属濃度の調整を通じて寄与している可能性が考えられた。

 研究グループは「今後はメトホルミンの服用前後での金属濃度推移を追跡し、血糖降下の程度や糖尿病合併症の抑制との関連性を詳しく検討することで、金属濃度の変化がメトホルミンの作用機序に関与しているかどうかをより明確に検証していくことが重要である」とし、また「研究がさらに進展すれば、「体内の金属濃度を適切に調整する」という新たな作用を持つ糖尿病およびその合併症の治療薬の開発へとつながる可能性がある」とした。

 本研究は、神戸大学大学院医学研究科 地域社会医学・健康科学講座の小川渉氏、坂口一彦氏らの研究グループにより行われ、その研究成果が『BMJ Open Diabetes Research & Care』に2025年9月1日付でオンライン公開された。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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