日本人高齢2型糖尿病の摂取エネルギー不足は筋肉減少につながる 糖尿病患者の摂取量と筋肉量の変化を調査 KAMOGAWA-DMコホート
研究成果は、2型糖尿病患者、とくに高齢2型糖尿病患者への、サルコペニア予防のための栄養指導に活用することが期待される。
高齢糖尿病患者の摂取エネルギー量と骨格筋量の変化について調査
京都府立医科大学は、日本人2型糖尿病患者で摂取エネルギー量と筋肉量の変化について検討し、とくに高齢患者で摂取エネルギー量が少ないと筋肉量が減少することを明らかにした。
2型糖尿病患者で加齢にともない増える、筋量および筋力低下で定義されるサルコペニアは、生命予後のみならずADL(日常生活動作)低下のリスクとなる。
高齢2型糖尿病患者では、健常者と比較して、サルコペニアの有病率が高いことが報告されており、サルコペニアの予防・改善が喫緊の課題となっている。
骨格筋量は高齢者では年間0.5~2%低下し、骨格筋量の維持には運動やタンパク質摂取が重要であることはよく知られているが、摂取エネルギー量も重要な要素となる。
研究グループはこれまで、サルコペニア合併高齢2型糖尿病ではそうでない高齢者に比べ、摂取エネルギー量が少ないことを、横断研究で明らかにしてきた。
しかし、2型糖尿病での摂取エネルギー量が骨格筋量の変化に与える影響については明らかになっていなかった。
そこで、京都府立医科大学内分泌・代謝内科で実施しているコホート研究「KAMOGAWA-DMコホート」を用いて、摂取エネルギー量と骨格筋量の変化について調査を行った。
研究は、京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の橋本善隆病院助教、福井道明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「Clinical Nutrition」に掲載された。
高齢糖尿病患者の58.9%で筋量低下 摂取エネルギーが少ないと筋量低下
対象となったのは、非高齢者2型糖尿病患者93名と高齢2型糖尿病患者197名。研究グループは、これらのデータを用いて前向き観察研究を実施した。
簡易型自記式食事歴法質問票を用いて、摂取エネルギー量、タンパク質摂取量などのデータを、生体電気インピーダンス分析法の体成分分析装置を用いて、骨格筋量のデータをそれぞれ収集。
BMIや四肢骨格筋肉量(SMI)を算出した。SMIは、四肢の筋肉量の合計(kg)を身長の2乗(m²)で割った値で、筋肉量の指標として用いられている。
SMIの変化量から年間筋量低下率を算出し、年間0.5%以上の低下を示したものを筋量低下群と定義した。
その結果、非高齢者では平均16.3ヵ月のフォローアップで54.8%に筋量低下を、高齢者では平均18.1ヵ月のフォローで58.9%に筋量低下が認められた。
非高齢者、高齢者に関わらず、筋量低下群では非低下群と比較すると、摂取エネルギー量が少ないことが明らかになった。
さらに、高齢者では年齢、性別、BMI、SMI、罹病期間、HbA1c、喫煙習慣、運動習慣、アルコール摂取習慣、インスリン使用、SGLT2阻害薬使用、GLP-1使用、ステロイド使用、腎不全、タンパク質摂取といったさまざまな筋量低下に関連する因子で調整した後も、摂取エネルギーが少ないことが筋量低下に関連すること(理想体重当たりのエネルギー摂取量1kcal増加当たりの調整オッズ比0.94[95%信頼区間0.88-0.996])が示された。
筋量低下群の定義を1.2%および2%の年間筋量低下率とした場合でも、同様の結果が認められた。
さらに、高齢2型患者ではインスリン治療を受けている群、血糖コントロール不良(HbA1c7%以上)群、運動習慣を有する群、喫煙習慣を有する群、肥満を有する(BMI25以上)群でも、摂取エネルギー量が少ないことと筋量低下に関連があることが示された。
過度にエネルギーを制限しないことが必要
今回の研究で、高齢2型糖尿病患者では摂取エネルギー量が少ないと筋量低下をきたすことが明らかになった。
「糖尿病患者では、適切なエネルギーを摂取することが重要ですが、近年増加している高齢2型糖尿病患者で課題となっているサルコペニアの予防の観点からは、筋量維持のためにしっかりとエネルギーを摂取することを医療者が意識して治療を行うこと、患者さんも過度にエネルギーを制限しないようにすることが必要とみられます」と、研究者は述べている。
京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学
Short energy intake is associated with muscle mass loss in older patients with type 2 diabetes: A prospective study of the KAMOGAWA-DM cohort(Clinical Nutrition 2021年4月1日)