スタチンに対する効果が減弱している症例で心不全リスクが増加 スタチンによるコレステロール低下作用が乏しい症例は15.2% 国循が調査

2021.03.23
 国立循環器病研究センターは、心血管イベントの発症予防効果を有する薬剤である「スタチン」について、急性心筋梗塞の一部の症例で効果が減弱し、急性心筋梗塞発症後の心不全合併リスクを高めることを明らかにした。

スタチンの効果が乏しい急性心筋梗塞症例は心不全リスクを高める

 研究は、国立循環器病研究センター心臓血管内科の津田浩佑氏、心臓血管内科部冠疾患科の片岡有医長、野口暉夫副院長らによるもので、研究成果は、医学誌「Cardiovascular Diagnosis & Therapy」オンライン版に掲載されました。

 コレステロールを低下させる薬剤である「スタチン」は、心筋梗塞・脳梗塞などの心血管疾患発症を予防する効果を有しており、ガイドラインにより急性心筋梗塞症の患者におけるスタチンの使用が推奨されている。

 一方、実臨床で一部、スタチンによるコレステロール低下作用が乏しい症例があることが報告されている。急性心筋梗塞後の症例で、ガイドラインに準じて「スタチン」を投与したにもかかわらず、その効果が乏しい症例での予後については詳細な研究は行われていない。

 研究グループは今回、同センターに入院した急性心筋梗塞の患者505例を解析。その結果、全症例の15.2%では、スタチンが開始されたにもかかわらず、コレステロールの低下効果が乏しく、ガイドラインで推奨されたLDLコレステロール管理目標値の達成率も低値だった。

 このようなスタチンの効果が乏しい症例は、BMIが低く、スタチン開始後の炎症反応検査であるCRPが高い傾向があった。

 急性心筋梗塞患者で、スタチンの効果が乏しい症例は、スタチンが有効な症例に比して心不全の発症頻度のハザード比が3.01と高く予後不良だった(95%信頼区間1.27-6.79、p値0.01)。とくにスタチン投与にもかかわらずLDLコレステロールが全く低下しない症例は、心不全発症率がさらに高まる(22.2%)ことも確認された。

出典:国立循環器病研究センター、2021年

 実臨床で、スタチンの有効性が個々の症例で異なることは認識されていたが、心不全に対する臨床的意義については十分に検証されていなかった。今回の研究では、スタチンに対する効果が減弱している症例で、心不全リスクが増加することが確認された。

 ガイドラインで推奨されたLDLコレステロールの目標値を達成することは、動脈硬化性心血管疾患の発症予防だけでなく、心不全発症のリスク低減でも重要であることが考えられる。

 今後、スタチンの効果が乏しい症例で、スタチン以外の薬剤を追加してLDLコレステロールをさらに低下させることによる心不全発症予防効果については、さらなる検討が必要だとしている。

 なお、スタチンの効果が減弱する機序の詳細は、まだ解明されていない。コレステロール代謝・産生に寄与する遺伝子変異が関係していることを示した論文報告があるのみであり、今後さらなる研究が必要だ。

 研究責任者である片岡氏は、「LDLコレステロール代謝を制御するバイオマーカーに着目し、スタチンの反応性との関係を明らかにする研究を実施している。将来的には、個々の症例でバイオマーカー測定などによりスタチンの有効性を予測し、その結果に応じて適切な脂質低下薬剤を選択して将来の心不全を含めた心血管疾患発症予防が可能となることを目指して研究を進めている」と述べている。

国立循環器病研究センター
Dimished response to statins predict the occurrence of heart failure after acute myocardial infarction(Cardiovascular Diagnosis & Therapy 2020年8月)

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