【新型コロナ】COVID-19増加にともなう脳卒中の診療現場への影響 迅速な診療プロセスよりも医療従事者への感染防御を優先

2021.02.25
 国立循環器病研究センター(国循)は、国循単施設での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)増加にともなう脳卒中診療の変化を調査し、初回緊急事態宣言の期間中の一時的な脳梗塞入院患者数の減少、脳卒中診療経過時間の遅延などの脳卒中センターの現状を明らかにした。
 COVID-19の増加後、迅速な診療プロセスよりも医療従事者への感染防御を優先して考慮した急性期の脳卒中診療指針が発表されている。

従来の時間短縮を目指したプロトコルとは異なる、新たな院内の脳卒中診療プロトコルを策定

 研究は、国立循環器病研究センターの豊田一則副院長、高下純平脳血管内科医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Neurology」電子版に掲載された。

 COVID-19は、発熱、呼吸器症状を呈するほか、海外では約5%に脳卒中を合併することが報告されている。そのため、脳卒中診療に従事する医療関係者は、救急診療の現場で常にCOVID-19の可能性を念頭に診療を行わなければならない状況に置かれている。

 脳卒中の診療は、発症から早期の治療開始が望まれる。そのため各脳卒中センターで一刻も早い再灌流療法(静注血栓溶解療法[t-PA静注療法]または機械的血栓回収術)開始のための診療経過時間短縮を目指したプロトコルが策定されている。

 しかし、COVID-19の増加後、迅速な診療プロセスよりも医療従事者への感染防御を優先して考慮した急性期の脳卒中診療指針が発表され、日本だけでなく世界各国の脳卒中センターで、診療体制の見直しが行われている。

 国循の脳血管部門でも2020年4月から、従来の時間短縮を目指したプロトコルとは異なる、新たな院内の脳卒中診療プロトコルを策定している。

 具体的には、救急外来での初期診療時の全医療スタッフが個人用保護具を装着し、頭部画像診断前に救急外来で胸部X線検査を用いたスクリーニングを実施。また、頭部画像診断モダリティとして、詳細な情報を得やすいMRI検査ではなく、感染防御対策を施しやすいCT検査を優先するようにしている。

頭部画像診断や血栓溶解療法までの時間が遅延

 今回の解析では、国循が所在する大阪府吹田市のCOVID-19陽性者数や救急搬送数、国循への脳梗塞の入院患者数の推移を調べた。また、2019年12月~2020年7月に国循脳内科で再灌流療法を行った脳梗塞の患者を、COVID-19増加前(2019年12月~2020年3月)と増加後(2020年4月~7月)に分け、各種臨床情報、診療内容の変化を比較した。これらの解析により、COVID-19増加の脳卒中センターへの影響を調べた。

 その結果、吹田市のCOVID-19陽性者数は、2020年3月~4月に増加。4月7日の緊急事態宣言発令にともない一旦減少したが、5月25日の緊急事態宣言解除後、7月から急激な患者数の増加を認め、第2波の様相を呈した。

 一方で、吹田市内の救急搬送数、国循の脳梗塞入院患者数は、緊急事態宣言発令期間が大部分を占める4、5月ともに減少したが、宣言解除後の6月以降には反跳して増加。再灌流療法の施行数は、緊急事態宣言発令期間中も目立った減少を示さず一定して推移した。

吹田市のCOVID-19陽性者数、救急搬送数、
国立循環器病研究センターの脳梗塞入院患者数、再灌流療法施行数の推移
出典:国立循環器病研究センター、2021年

 再開通療法を行った患者は、2019年12月~2020年7月の間で93例。COVID-19増加前と増加後で患者の脳梗塞の重症度、基礎疾患、治療内容に差はみられなかった。また、診療時間の経過について、脳梗塞の発症から国循に来院するまでの時間に差はなかった。
 ところが、診療時間の経過については、脳梗塞の発症から国循に来院するまでの時間には差がなかったものの、来院から頭部画像診断までの時間(25分が30分に)、来院から血栓溶解療法までの時間(38分から51分に)はCOVID-19増加後で遅延した。
 来院から機械的血栓回収術開始までの時間については、有意差はなかったもののCOVID-19増加後延長する傾向がみられた(70分から82分に)。退院時の日常生活自立の割合は、有意差はなかったものの、増加する傾向がみられた(32%から45%に)。

脳卒中の患者の臨床所見と診療経過時間
出典:国立循環器病研究センター、2021年

COVID-19増加にともなう行動変化 院内感染防御を優先して時間をかけた影響が

 COVID-19増加期間中に脳卒中や虚血性心疾患の入院患者数が減少するという現象は、世界各国で報告されている。また、脳梗塞入院患者数の減少の原因として、軽症患者の受診控えが影響していることが報告されている。

 今回の解析で、脳梗塞の入院患者数が減少しているにもかかわらず、比較的重症の脳梗塞患者が対象となる再灌流療法の施行数が維持されているという現象が認められ、同様の現象は海外の脳卒中センターからも報告されている。

 今回の解析結果からは、緊急事態宣言発令期間に一致して脳梗塞入院患者数の減少が認められたことから、COVID-19増加にともなう行動変化が入院患者数に影響を与えている可能性があるという。

 再灌流療法例における治療開始までの診療時間の遅延については、特に頭部画像診断までの時間が遅延していることから、医療スタッフの個人用防護具の着脱、救急外来でのCOVID-19スクリーニングなど、確実な院内感染防御を優先して時間をかけた結果であると推測された。

 「今後もCOVID-19増加が持続する可能性があることを考えると、今後は診療時間、診断精度、感染防御のバランスのとれた診療体制の構築が必要です。今後もCOVID-19増加に伴う脳卒中診療の状況を把握するため、COVID-19蔓延下の診療現場の状況について、タイムリーな臨床データの解析が必要であると考えます」と、研究グループは述べている。

国立循環器病研究センター
Acute stroke care in the With-COVID-19 Era: experience at a comprehensive stroke figure in Japan(Frontiers in Neurology 2021年1月18日)

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