褐色脂肪細胞の燃焼を促す新たなメカニズムを解明 体の熱産生にマイクロRNA-33が関与 糖尿病やメタボのターゲットに

2021.02.18
 京都大学の研究グループは、脳内のマイクロRNA-33が適応熱産生に重要であることを世界ではじめて解明した。
 マイクロRNA-33を欠損したマウスは、低温で体温が維持できず、その原因として褐色細胞から熱産生が起きにくくなることを明らかにした。
 褐色脂肪細胞の活性化はエネルギー消費を促すことから、2型糖尿病やメタボの治療、肥満改善のターゲットとして注目される。

褐色脂肪細胞による熱産生機能の生理学的メカニズムを解明

 褐色脂肪細胞が、脂肪を分解し、熱を産生することで体温は維持される。この褐色脂肪細胞の機能低下や数の減少が、2型糖尿病などの生活習慣病やメタボリックシンドロームの発症において重要と考えられる。

 脂肪細胞は、いわゆる皮下脂肪や内臓脂肪などの白色脂肪細胞と、主に首、肩、鎖骨や肩甲骨、腎臓周辺にある褐色脂肪細胞の2種類がある。この2つの脂肪細胞は、同じ脂肪であるにもかかわらず、まるで対照的な特徴をもっている。白色脂肪細胞が細胞内に栄養を脂肪として貯蓄するのに対し、褐色脂肪細胞は脂肪を分解し熱を産生することで体温の調節をする。特に寒い環境下では、交感神経の活動が高まるにつれて褐色脂肪細胞が活性化し、体温が下がりすぎないよう熱を産生(適応熱産生)する。

 研究グループはこれまでに、コレステロール合成および取り込みに重要なSterol regulatory element-binding protein 2(SREBP-2)遺伝子のイントロン16にあるマイクロRNA(miRNA、miR)-33の機能を、世界に先駆けて詳細に検討してきた。その結果、miR-33の存在により、低HDL-C、動脈硬化症、動脈瘤、(心臓)線維化が生じることを明らかにした。一方、このmiR-33の欠損マウスは肥満が生じることが分かっていたが、その原因ははっきりとしていなかった。

 そこで研究グループは、視床下部のmiR-33に注目し、これが寒冷刺激の際に交感神経活性化を介して、体温維持に働くことを明らかにした。

 miR-33を持たないマウス(miR-33KOマウス)を調べた結果、褐色脂肪細胞の熱産生機能が弱まり、冷たい刺激にさらされた時に体温を維持できなくなっていた。また、このマウスはエネルギー消費が少なく、肥満になりやすいことも分かった。

 寒冷刺激により視床下部のmiR-33の量が増加するので、miR-33は交感神経活性の程度を変化させるスイッチとして働いて、熱産生を介し、全身の代謝を調節していると考えられる。

 「今回の研究で、褐色脂肪細胞による熱産生機能の生理学的メカニズムの一端を解明することができました。褐色脂肪細胞の活性化はエネルギー消費を促すことから、2型糖尿病やメタボリックシンドロームの治療、肥満改善のターゲットとして今後ますます注目されると考えられます」と、研究者は述べている。

 研究は京都大学大学院医学研究科の堀江貴裕助教、尾野亘同准教授らの研究グループによるもの。研究成果は国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載された。

出典:京都大学大学院医学研究科、2021年

中枢神経系でのmiR-33の量をコントロールできれば肥満改善に

 研究グループは、miR-33が欠損していると、標的遺伝子であるGABAA受容体のサブタイプ(Gabrb2とGabra4)の発現増加により、抑制性のGABA神経シグナルが増強し、交感神経活性を抑制するメカニズムがあることを、カテコラミン産生細胞(交感神経)特異的なGabrb2とGabra4のノックダウン実験で証明した。

 寒冷刺激により視床下部のmiR-33が増加することから、miR-33は視床下部で交感神経活性の程度を増強させるスイッチとして働いて熱産生を増加(適応熱産生)させているとしている。また、同様の機序は高脂肪食負荷でも起こり、熱産生を介して全身の代謝を調節していると考えられる。

 「褐色脂肪細胞の活性化はエネルギー消費を促すことから、中枢神経系でのmiR-33の量をコントロールすることで、2型糖尿病やメタボリックシンドロームの治療につながり、肥満改善のターゲットとして今後ますます注目されると考えられます」と、研究者は述べている。

京都大学大学院医学研究科
MicroRNA-33 maintains adaptive thermogenesis via enhanced sympathetic nerve activity(Nature Communications 2021年2月16日)

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