糖尿病治療薬のメトホルミンが多発性肝嚢胞の肝病変を抑制 肝嚢胞や肝線維化を改善する効果を確認

2021.02.10
 東北大学は、糖尿病治療薬であるメトホルミンの、多発性肝嚢胞モデルラットに対する効果を検証した結果、12週間のメトホルミン投与によって、肝嚢胞や肝線維化が改善することを確認した。
 肝臓に嚢胞と呼ばれる空間ができ、それが徐々に拡大する多発性肝嚢胞に対する薬物療法で、保険収載されているものはない。

メトホルミンが肝嚢胞の病態進行を抑える効果を確認

 研究は、東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野の佐藤陽一氏、上月正博教授、東北医科薬科大学リハビリテーション学の伊藤修教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Physiology Gastrointestinal and Liver Physiology」にオンライン掲載された。

 多発性肝嚢胞は、肝臓に嚢胞という袋が生じ、腹部を圧迫していく病気。長い経過の中で徐々に嚢胞が増大する。腹部の臓器が圧迫されて呼吸困難感や運動制限が生じる可能性がある。

 嚢胞が大きくなると体を前に倒すことが困難になり、日常生活でも動作が制限されるようになる。現在までに保険適用されている薬剤はなく、肝嚢胞に対する治療法の確立が課題となっている。

 近年、多発性嚢胞腎患者に対してメトホルミンを投与すると、腎嚢胞が抑制されることが報告されている。多発性嚢胞腎は国の指定難病で、腎臓に嚢胞が進行性に発生する病気。徐々に腎機能が低下し、透析に至る場合もある。合併症の1つに肝嚢胞があり、8割近くの患者で認められると報告されている。

 多発性嚢胞腎患者の多くで肝嚢胞が生じており、嚢胞形成のメカニズムも似ていることから、メトホルミンが肝嚢胞に対しても抑制効果がある可能性が指摘されていた。

 しかし、これまでにメトホルミンの多発性肝嚢胞もしくは多発性嚢胞腎の肝病変に対する効果を検証した報告はなく、その効果は不明だった。

メトホルミンが肝臓内のAMPKを活性化する?

 研究グループは今回、多発性肝嚢胞モデルラットに対してメトホルミンを使用すると、肝嚢胞や肝線維化が抑制されることを明らかにした。メトホルミンを飲水に混ぜて、12週間投与したラットと通常水のラットを比較した。

 その結果、肝嚢胞や肝線維化の程度がメトホルミンの投与により改善した。さらにメトホルミンは、嚢胞を取り囲む細胞(胆管上皮細胞)の増殖を抑制し、嚢胞の拡大を抑える効果があることが確認された。

 肝線維化は、肝臓にコラーゲンなどの物質が蓄積し、臓器が固くなってしまうこと。進行すると機能障害を引き起こす。

メトホルミンの使用で肝嚢胞が減少した
図の白い部分が嚢胞

出典:東北大学大学院医学系研究科、2021年

 研究グループは以前、多発性肝嚢胞モデルラットに対する運動療法が、肝嚢胞を抑制することを報告している。運動療法はメトホルミンと同様、胆管上皮細胞の細胞増殖を抑制した。

 この機序として、肝臓内のAMPKというタンパク質の活性化が関与している可能性がある。メトホルミンも肝臓内のAMPKを活性化したことから、今回の結果は、運動療法の肝嚢胞抑制効果の機序を裏付ける可能性がある。

 今回の研究は、多発性肝嚢胞モデルラットに対するメトホルミンが、肝嚢胞や肝線維化を抑制することを初めて実証した重要な報告。この研究成果により、「有効な薬物療法が確立していない多発性肝嚢胞で、メトホルミンが効果的であると期待される」と、研究グループは述べている。

東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野
Metformin slows liver cyst formation and fibrosis in experimental model of polycystic liver disease(American Journal of Physiology Gastrointestinal and Liver Physiology 2021年1月13日)

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