【新型コロナ】痛風治療薬「コルヒチン」はCOVID-19の抗炎症薬として有効か 琉球大と横浜市立大が医師主導の治験を開始
2020.11.06
琉球大学と横浜市立大学は、痛風治療薬である「コルヒチン」が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の軽症から中等症に対する抗炎症薬として有効かを検証するため、医師主導の治験を開始すると発表した。
COVID-19の軽症から中等症に対する抗炎症薬として期待
研究は、琉球大学大学院医学研究科 感染症・呼吸器・消化器内科学講座の金城武士助教、同臨床薬理学講座の植田真一郎教授、琉球大学病院臨床研究教育管理センターの池原由美助教を中心とする研究グループが、横浜市立大学大学院 データサイエンス研究科長の山中竹春教授などと共同で行うもの。 研究グループは、すでに痛風治療薬として薬事承認されている「コルヒチン」の適応症を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に広げることを目的に、医師主導の治験を実施する。治験開始日は2021年1月を、終了日は同年5月を予定している。 COVID-19の治療は、抗ウイルス薬と抗炎症薬の併用によって行われる。酸素投与が必要(中等症Ⅱ)または人工呼吸器での管理が必要(重症)の場合には、抗ウイルス薬である「レムデシビル」と、抗炎症薬の「デキサメタゾン」が薬事承認されているが、重症化するリスク因子をもっている軽症者や、肺炎はあるが酸素投与は必要ではない中等症Ⅰの患者の治療薬はまだ承認されたものがない。 抗ウイルス薬の「ファビピラビル」の承認申請が10月に行われ、現在結果が待たれているが、抗炎症薬ではまだ薬剤がないのが現状だ。 今回の治験は、この空白となっている軽症から中等症Ⅰに対する抗炎症薬として、「コルヒチン」の有用性を確認するもので、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業の研究開発課題として実施される。 「コルヒチン」の有効性が確認できた場合、より大規模な試験で有効性を確認し、COVID-19後の血栓症予防効果を検証する試験を実施する予定。出典:横浜市立大学、2020年
コルヒチンの2型糖尿病合併冠動脈疾患を対象とした治験も実施中
「コルヒチン」はイヌサフランに含まれるアルカロイドで、日本では抗炎症薬として痛風、家族性地中海熱が適応症となっている。 琉球大学では、臨床薬理学講座の植田真一郎教授が、COVID-19でも重症化のリスクが高い糖尿病合併冠動脈疾患患者のコホート研究から、慢性炎症亢進と心血管イベント発生が関連すること、炎症反応の亢進した冠動脈疾患患者での「コルヒチン」の内皮機能改善作用を確認しており、2型糖尿病合併冠動脈疾患患者を対象に、2017年から心血管イベントの抑制効果を検証する医師主導治験を実施している。 その中で、「コルヒチン」の作用機序から、COVID-19治療薬としての開発構想が生まれた。COVID-19重症化の過程では、いわゆる宿主炎症反応期として過度の好中球活性化やサイトカイン増加により血管内皮炎が生じ、微小血管に血栓が形成され、これが致命的な呼吸不全や多臓器不全を引き起こす可能性が示唆されている。 「コルヒチン」は好中球活性化を抑制し、病態のキーとなるサイトカイン生成をNLRP3インフラマゾーム形成抑制により低下させ、重症化を防止できる可能性がある。 「コルヒチン」はリスクの高い軽症患者や呼吸不全のない中等症患者への投与により、ウイルス反応期に引き続いて生じる過剰な炎症反応を抑制し、重症化を予防することが期待される。 またCOVID-19により強い炎症が肺や血管に生じた場合、線維化や動脈硬化の進展などで回復後の予後の悪化に繋がる可能性もあり、日本でも回復後の調査が開始された。 実際、1918年のスペイン風邪の後、重症の呼吸器感染症後に1年間にわたって心血管リスクが上昇することが観察されている。したがって継続的な抗炎症治療が回復後も必要とされる可能性があり、低用量で抗炎症作用を呈し、免疫抑制作用がなく、長期使用でも重篤な副作用のない「コルヒチン」はその候補となる。コルヒチンには他の抗炎症治療よりも優位性がある
今回の治験は、入院中の中等症および軽症でも重症化因子を有するCOVID-19患者を対象とした「コルヒチン」の第2相、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照、多施設共同、並行群間比較試験を医師主導治験として実施される。 中等症および重症化ハイリスク因子を有する軽症のCOVID-19患者を対象に、コルヒチン初日1.5mgまたはプラセボ、翌日から 0.5mgまたはプラセボを1日1回4週間経口投与したときの高感度CRPを指標にした炎症反応亢進抑制作用を検討する。 研究チームは、他の抗炎症治療と比較したときの「コルヒチン」の優位性について、次のことを挙げている:(1) 低用量でも抗炎症作用を有し家族性地中海熱患者などで長期投与の安全性も担保されている。
(2) ステロイドのような易感染性を招かない。
(3) 抗炎症作用による血管内皮機能の改善や心血管イベントの減少も報告されている。
(4) 抗炎症による重症化予防の視点からIL-6阻害薬の研究も進められているが、現時点では効果ははっきりせず、好中球とインフラマゾームに作用する「コルヒチン」は単独 のサイトカイン阻害より有効である可能性が高く、かつ安価で安全である。
(5) デキサメタゾン(ステロイド)は酸素投与を必要としない患者や高齢者ではむしろ予後を悪化させる可能性がある。
(6) デキサメタゾンと併用、あるいは投与終了後の継続した抗炎症治療として投与が可能である。
(7) それにより重症化の予防のみならず回復後の継続投与で肺、血管の後遺症のリスクを低減できる可能性がある。 琉球大学医学部第一内科
横浜市立大学大学院 データサイエンス研究科
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]