新型コロナウイルスを捕捉・不活性化する人工抗体を作製 急速なパンデミックを抑えるために
2020.10.01
名古屋大学などが、新型コロナウイルスを捕捉・不活性化する人工抗体を作製したと発表した。
独自に開発した人工抗体を高速に作製する方法「TRAP提示法」を用いて、新型コロナウイルスに特異的にかつ強く結合する複数の人工抗体を、わずか4日で取得することに成功した
独自に開発した人工抗体を高速に作製する方法「TRAP提示法」を用いて、新型コロナウイルスに特異的にかつ強く結合する複数の人工抗体を、わずか4日で取得することに成功した
新型コロナウイルスを捕捉・不活性化
名古屋大学などが、新型コロナウイルスを捕捉・不活性化する人工抗体を作製したと発表した。この人工抗体が、新型コロナウイルスに対して高い中和活性をもつことも確認した。 人工抗体は、既存のタンパク質のループ部分や表面に、標的と結合する配列をもつ人工的な抗体。通常は、ランダムなアミノ酸配列を導入したタンパク質群から選択操作によって作る。骨格にヒト由来のタンパク質を使用することで、抗原性を下げることもできる。 また、中和抗体はウイルス感染を阻止する能力をもつ抗体だ。 一般的に、抗原検査に使用する抗体や中和抗体は、数ヵ月の開発期間を要する動物免疫によって得られる。この開発期間を短縮するために、近年、人工抗体を試験管内で創製する研究開発が進められている。 研究グループは、新しい試験管内抗体作製法として、高い多様性(10兆種類)をもつ人工抗体候補群の中から、高速に人工抗体を選び出す技術「TRAP提示法」を開発した。 4月7日に標的となる新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を受け取り、10兆種類の人工抗体候補群の中から、標的に結合する人工抗体をわずか4日で同定することに成功した。 ウイルスのタンパク質に強く結合する抗体は、治療目的の中和抗体、もしくは抗原検査の際にウイルスタンパク質を特異的に捕捉する抗体として使用できる。 そのため、迅速で高性能の抗体の作製技術は、急速なパンデミックを抑えるために必要不可欠だ。 研究は、名古屋大学大学院工学研究科の村上裕教授の研究グループが、名古屋医療センター臨床研究センター感染・免疫研究部の岩谷靖雅部長と共同で行ったもの。研究成果は、「Science Advances」オンライン版に掲載された。出典:名古屋大学、2020年
新型コロナウイルスを感染できないように中和
得られた人工抗体は、単量体で新型コロナウイルス表面のスパイクタンパク質にKD = 0.4 nM程度と非常に強く結合し、ヒトに感染するウイルスとしてはもっとも近縁であるSARSコロナウイルスの表面のスパイクタンパク質には結合しなかった。 また、この人工抗体を用いて、患者の鼻ぬぐい液から高効率に新型コロナウイルスを濃縮することにも成功し、さらに新型コロナウイルスと人工抗体を混ぜることで、新型コロナウイルスを細胞に感染できないように中和することにも成功した。 この人工抗体の骨格はヒト由来のタンパク質だが、大腸菌で容易に大量生産でき、抗原検査による迅速な診断とともに、中和抗体としても応用できると考えられる。 また、研究で開発したTRAP提示法は、COVID-19だけでなく今後のパンデミックに素早く対処するための新技術となることが期待される。 PCR検査はウイルス感染診断法として優れた技術であるが、検体の集約の必要性や検査に時間を要するため、パンデミックの速度が速い場合には限界がある。簡便な抗原検査でスクリーニングを行い、精度が高いPCR検査は確定診断に活用するのが理想的だ。 名古屋大学工学部化学生命工学科 村上研究室Antibody-like proteins that capture and neutralize SARS-CoV-2(Science Advances 2020年9月18日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]