糖尿病治療薬「メトホルミン」の発がんリスクを評価 55万人に1人ががん発症 NDMA生成の原因は?
2020.10.01
糖尿病治療薬である「メトホルミン塩酸塩」から発がん性物質が検出された問題について、厚生労働省は「メトホルミン製剤の使用による健康影響評価」を示した。
医薬品食品衛生研究所が行った健康リスクの評価によると、メトホルミン製剤1,500mgを10年間毎日服用したときの発がんリスクは、およそ55万人に1人(0.00018%)が生涯(70年間)でがんを発症する程度のものだという。
医薬品食品衛生研究所が行った健康リスクの評価によると、メトホルミン製剤1,500mgを10年間毎日服用したときの発がんリスクは、およそ55万人に1人(0.00018%)が生涯(70年間)でがんを発症する程度のものだという。
国内4社が自主回収に着手
シンガポール保健科学庁(HSA)が、2型糖尿病治療薬であるメトホルミン塩酸塩を含有する製剤から発がん性物質であるN‐ニトロソジメチルアミン(NDMA)が微量に検出されたと発表したのを受けて、厚生労働省は2019年12月9日に日本国内の製造販売業者15社に対し、メトホルミン塩酸塩を含有する製剤についてNDMAの分析を指示した。 その結果、国内のメトホルミン塩酸塩の一部の製品から、暫定基準値(0.043ppm)を超えたNDMAが検出された。大日本住友製薬と日本ジェネリックが2020年4月27日に、東和薬品と日医工が9月16日に、それぞれ該当ロットの自主回収に着手した。 自主回収を行った4社のメトホルミン製剤の年間使用患者数は、2019年では約148万人と推定されている。NDMA生成の原因は特定できていない
NDMAが生成された原因について、各国の規制当局が調査を進めているが、まだ特定はできていない。 大日本住友製薬および日本ジェネリックの調査では、NDMAが原薬から検出されておらず製剤のみから検出されており、PTPシートの印字インク中のニトロセルロースと原薬由来のジメチルアミンとが反応してNDMAが生成された可能性が示唆されている。 両社は、(1)PTPシートのインク成分の変更、(2)出荷前に全製剤の分析を行い、NDMAをモニタリングするなどの対策をとっている。 東和薬品および日医工の調査では、該当製品のPTPシートではニトロセルロースを含む印字インクを使用していないことなどから、上記とは別の原因によりNDMAが検出された可能性がある。また、原薬ではNDMAは検出限界未満だったことから、製剤化工程でのNDMAの生成が示唆されている。 両社は、出荷前に全製剤でNDMAを分析するなどの対策をとっている。メトホルミン製剤の服用による発がんリスクを評価
メトホルミン製剤中に含まれるNDMAの分析結果をもとに、医薬品食品衛生研究所が、メトホルミン製剤の服用による健康への影響評価を行った。 その結果、メトホルミン製剤1,500mgを10年間毎日服用したときの理論上の発がんリスクは、およそ55万人に1人(0.00018%)が生涯(70年間)でその曝露により過剰にがんを発症する程度のリスクに相当すると評価された。 医薬品規制調和国際会議「潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中DNA反応性(変異原性)不純物の評価および管理ガイドライン」(ICH M7ガイドライン)では、「およそ10万人に1人のがんの増加」のリスクは許容可能とされており、上記の発がんリスクは許容される程度に収まっている。 メトホルミン製剤の1日使用量は、維持用量が通常1日750~1,500mg、最大2,250mgとされており、データベースを用いた使用実態調査では1日1,500mg以下の使用がほとんどだった。メトホルミンの発がんリスクを結論付けるのは困難
医薬品医療機器総合機構(PMDA)に2004~2020年に報告されたメトホルミン製剤の発がんに関連するものは21件(重複内容を除く)。なお、同時期に因果関係は明確ではないが、メトホルミン製剤のがんに関連する国内副作用症例が173件報告されている。 大日本住友製薬が、国内外の文献データベース(JMEDPlusおよびMEDLINE)を用いて、メトホルミンの発がんリスクとの関連を検討した文献を調査したところ、抽出された国内文献は35件、海外文献は22件だった。 メトホルミンには発がんリスクの増加と低下の両方を示唆する研究結果が報告されており、交絡因子(高齢、肥満、運動不足、アルコール多飲など)の影響なども考慮すると、現時点の情報からメトホルミンによる発がんリスクを結論付けることは困難だとしている。 なお、厚労省は2019年12月9日に事務連絡を発令し、メトホルミン製剤を使用している患者に対し、「メトホルミンは血糖降下薬の中でも重要な薬剤の1つであり、服用の中止により様々な併発症のリスクを生じる可能性があります。(略)患者から相談を受けた場合には、糖尿病に対する治療の必要性について改めてご説明いただくとともに、服用を中止しないよう回答いただきたい」と注意を促している。 薬事・食品衛生審議会(医薬品等安全対策部会安全対策調査会)(厚生労働省)関連情報
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]