遺伝性の脂質異常症「家族性高コレステロール血症」 若いうちからLDL-Cが上昇
2019.10.04
コレステロール値が高いのは遺伝のせいかもしれない。生まれつきLDLコレステロールが高い「家族性高コレステロール血症」という病気が注目されている。
日本動脈硬化学会は社会啓発を目的としたセミナーを開催した。
日本動脈硬化学会は社会啓発を目的としたセミナーを開催した。
気付かれにくい家族性高コレステロール血症
悪玉のLDLコレステロールが生まれつき多い「家族性高コレステロール血症(FH)」という病気がある。若いうちから動脈硬化が進み、狭心症や心筋梗塞などの危険性が増す。 この病気に気付いていない患者が大勢いるとみられている。とくに小児の場合、臨床的な症状が乏しく、健康診断などによるLDLコレステロール値の早期発見が難しい。現時点で10歳前後の血液検査を実施している自治体はとても少ないからだ。 日本動脈硬化学会は、このほど社会啓発を目的に、家族性高コレステロール血症に関するプレスセミナーを開催した。家族性高コレステロール血症とは
日本での家族性高コレステロール血症の患者数は、50万人超と推定されている。200~500人に1人が発症し、遺伝性代謝疾患の中でもっとも頻度が高く、日常診療で高頻度にみつかる疾患だ。 原因は、LDLコレステロールを肝臓で取り込む受容体に関係する遺伝子に異常があること。 通常の脂質異常症は、食べ過ぎや運動不足、肥満などが大きく影響するが、家族性高コレステロール血症はこれらの生活習慣と関係なく、15~20年も早く発症する。 ヒトの遺伝子は、父親由来と母親由来の2つが一組となってできている。LDL受容体やその働きに関わる遺伝子の、いずれか一方のみに異常が認められる場合を「ヘテロ接合体」と呼び、両方に異常がある場合を「ホモ接合体」と呼ぶ。 家族性高コレステロール血症のヘテロ接合体の患者は、血清総コレステロール値が高く、180mg/dL以上に上昇する(通常は120~220mg/dL)。このため、適切に治療を行わないと、若い頃から動脈硬化が進行して、狭心症や心筋梗塞などの命に関わる病気を発症する。アキレス腱が厚くなっている人は要注意
家族性高コレステロール血症が疑われるのは次の3つの場合だ。2つ以上に思い当たる場合は、糖尿病・内分泌代謝内科や循環器内科などの専門の医療機関を受診することが勧められる。(1)未治療のLDLコレステロールが180mg/dL以上である
(2)皮膚や腱に黄色腫がある
(3)家族(両親、祖父母、子供、叔父、叔母)で以下に当てはまる人がいる
・ LDLコレステロールが180mg/dL以上
・ 若年で冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)と診断されている(男性は55歳以下、女性は65歳以下) 家族性高コレステロール血症では、とくにアキレス腱に黄色腫と呼ばれるコレステロールの塊がみられることが多い。成長とともに、結節状にもりあがった黄色腫が認められるようになる。黄色腫は肘や膝、手首、おしり、手の甲などにできることもある。
薬を使った治療
家族性高コレステロール血症と診断されたら、LDLコレステロール値100mg/dL未満を下げることを目標に治療をする。 治療では薬が積極的に使われる。まず、コレステロールの合成を抑えるスタチンが使われる。ただ、スタチンだけでは効果が足りないことが多く、コレステロールの吸収を抑えるエゼチミブ、体内での脂質の合成を阻害するロミタピド、LDLの酸化や黄色腫を抑えるプロブコール、胆汁酸の吸収を抑えるレジンなどが併用される。 それでも効果が足りない場合に、LDLアフェレシスという治療法がある。LDLアフェレシスは、体外循環を用いて悪玉コレステロールであるLDLを取り除く治療法。 また、2016年にPCSK9阻害薬(エボロクマブ)が登場した。2~4週間に1回注射する薬で、スタチンと併用して使用する。スタチンとの併用で、スタチン単独の場合に比べ、LDLコレステロール値が平均7割近くも下がるという報告がある。早期発見・治療で確実に予後が良くなる
薬による治療だけでなく、生活の改善も大切だ。食べ過ぎや運動不足、肥満などが重なると、さらにLDLコレステロール値が上がってしまうので、適正体重を維持し、食事療法と運動療法を続ける必要がある。禁煙と受動喫煙も防止も必須だ。 家族性高コレステロール血症で重要なのは早期発見・治療だ。「なるべく早く診断し、適切な治療を行うことで、確実に予後を良くできる。そのためにはFHについて、医療者だけでなく、社会にもよく知ってもらう必要がある」と、国立循環器病研究センター研究所病態代謝部の斯波真理子氏は述べている。 家族性高コレステロール血症とは?(日本動脈硬化学会)難治性家族性高コレステロール血症患者会
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]