複数の慢性疾患併存高齢者、年間医療費のみならず年間介護給付費も高額に 筑波大

2019.03.14
 後期高齢者において、同時に罹患している疾患の数が多いほど、年間医療費に加え、年間介護給付費も高額になることが、筑波大学などの調査で明らかになった。

高齢化を迎えた日本で医療費・介護費の増加は大きな問題

 高齢者は、糖尿病や高血圧、脂質異常症、心疾患、脳血管疾患など、多くの疾患を同時に罹患していることが多い。東京都健康長寿医療センターの調査によると、高齢者の6割が3疾患以上の慢性疾患を併発している。

 日本が抱えている大きない課題は「健康寿命の延伸」と「医療費の適正化」だ。適切な保健指導により若い頃から生活習慣病を予防する生活スタイルを定着させ、多疾患併存を防ぐことが重要となっている。

 後期高齢者において、多疾患の併存の度合いが高いほど、年間医療費に加え、年間介護給付費も高額になることが、筑波大学などの調査で明らかになった。多疾患の高齢者では、医療費と介護給付費の合計も高額になるという。

3万人超の医療・介護保険のレセプトデータを解析

 日本の年間国民医療費は42.1兆円を超え、年間介護給付費も10兆円にせまっている。さらなる高齢化により、これらの額は今後ますます増大することが予想されている。医療・介護保険制度を持続させるために、医療費・介護給付費の増大の原因をさぐり、適切な対応をすることが重要だ。

 筑波大学などの研究グループは、後期高齢者の医療レセプトと介護レセプトのデータを突き合わせた分析研究を行った。この研究は、同大ヘルスサービス開発研究センターの森隆浩准教授、田宮菜奈子センター長/教授らが、東京大学、東京都健康長寿医療センターと共同で行ったもの。

 医療・介護保険のレセプトデータを個人レベルで突き合わせ、匿名化された状態で利用することで、高齢者の医療・介護にまたがる研究が可能になった。

 研究グループは、多疾患併存の指標としてCCI(Charlson Comorbidity Index)値を用いて、高齢者における多疾患併存と年間医療費・介護給付費の関係を調べた。

 対象となったは、少なくとも1回は医療保険サービスを使用し、かつ12ヵ月以上の追跡が可能な75歳以上の後期高齢者(n=3万42)。CCIには、慢性合併症をともなう糖尿病、心不全、腎疾患、肝疾患、慢性肺疾患、リウマチ疾患、認知症、片麻痺あるいは対麻痺、悪性腫瘍、AIDS/HIVが含まれる。今回の研究では、CCI値を0、1、2、3、4、5以上に分類した。

高齢者の年間医療費・介護給付費の合計は108.6万円

 その結果、12ヵ月間の医療費・介護給付費の合計は、平均で108.6万円に上ることが明らかになった。分析した結果、併発症が増えCCI値が1上昇すると、平均年間医療費は15.7万円、平均年間介護給付費は12万円、また両者の合計は25.7万円高くなることが明らかになった。

 高齢者の多疾患併存が介護給付費の増大と関連している背景としては、多疾患併存を有する高齢者はもともと介護のニーズが高い傾向にあり、要介護度の上昇にもとない利用限度額も上昇し、結果として介護給付費が増大したのではないかと説明している。

 実際に、CCI値が高いほど、要支援・要介護状態でない割合が低くなり、要介護度5の割合が高いという結果が得られた。一方で、供給が需要を規定している可能性(要介護度の上昇にともないい利用限度額上限まで介護給付費が使用される可能性)も考えられる。
 これらから、高齢者の多疾患併存は年間医療費のみならず、年間介護給付費の増大にも関連していることが示された。東京都健康長寿医療センターの調査によると、多疾患を抱えやすい高齢者の特徴は、▼男性、▼85~89歳、▼医療費が1割負担、▼在宅医療を受けている、▼外来受診施設数が多い、▼入院回数が多い――。

 健康寿命の延伸し、医療費の適正化するために、適切な保健指導を行い、若い頃から糖尿病や高血圧、脂質異常症などの慢性疾患の一次予防・二次予防につながる生活スタイルを定着させることが必要だ。

筑波大学ヘルスサービス開発研究センター
日本医療研究開発機構
The Associations of Multimorbidity with the Sum of Annual Medical and Long-Term Care Expenditures in Japan(BMC Geriatrics 2019年3月7日)

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