インスリンを効率良く分泌させるシナプスタンパク質を同定 発現量が減少するとインスリン分泌に障害
2019.01.31
杏林大学と山梨大学の研究グループは、神経伝達物質が放出されるアクティブゾーンのシナプスタンパク質「ELKS」が、インスリンを膵β細胞から血管方向へ効率良く分泌させることを発見した。
ELKSは毛細血管側のβ細胞膜に局在しているが、その発現量が減少するとインスリン分泌が低下することも確認。ELKSを標的とした新たな糖尿病治療薬の開発につながる可能性がある。
ELKSは毛細血管側のβ細胞膜に局在しているが、その発現量が減少するとインスリン分泌が低下することも確認。ELKSを標的とした新たな糖尿病治療薬の開発につながる可能性がある。
インスリンを効率良く血管方向に分泌させる仕組みを発見
研究は、杏林大学医学部生化学教室の今泉美佳教授、山梨大学医学部生化学講座第一教室の大塚稔久教授らによる研究グループによるもので、詳細は「Cell Reports」オンライン版に掲載された。 膵島のβ細胞は静脈系毛細血管を囲むように配置されており、インスリンはβ細胞膜の毛細血管に面した領域から血管方向へ分泌されると考えられている。しかし、ど゙のようなメカニズムで血管方向へ優先的に分泌されるかは解明されていなかった。 一方、アクティブゾーンは、神経プレシナプス終末のポストシナプスと隣接する領域で、この部位で神経伝達物質が放出される。 研究グループはこれまで、アクティブゾーンに局在するタンパク質群であるアクティブゾーンタンパク質は、ELKS(エルクス)など数種類が同定されており、これらが相互作用することでアクティブゾーン形成や、シナプス小胞の膜への融合(開口放出)を制御していることを解明していた。 さらに、ELKSがβ細胞にも発現しており、インスリン分泌を増加させる役割を担うことを突き止めていた。 今回の研究では、β細胞にも神経シナプスのアクティブゾーンのような分泌部位があり、血管方向への優先的なインスリン分泌においてELKSが何らかの役割を担っていると考えた。 これを検証するために、ELKSを膵β細胞で欠損させたβ細胞特異的ELKSノックアウトマウスを作製。このマウスに糖負荷試験を行ったところ、耐糖能異常がみられた。 このマウスから調製した膵島β細胞では、生理的な分泌刺激であるグルコースに対するインスリン分泌(特にインスリン分泌の初期相)が大きく低下していた。 グルコース刺激において、β細胞はグルコースを取り込み、代謝することで細胞膜の脱分極を引き起こし、電位依存性カルシウム(Ca2+)チャネルの活性化による細胞内へのCa2+の流入が直接の引き金となって、インスリンが分泌される。 ELKSノックアウトマウスのβ細胞では、グルコース刺激に対する細胞内Ca2+上昇応答も低下しており、ELKSは細胞内Ca2+上昇を促進することでインスリン分泌を増加させていることが明らかになった。[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]