免疫チェックポイント分子LAG-3による免疫抑制メカニズムを解明 1型糖尿病発症のメカニズム解明と治療法開発に期待
2018.10.25
免疫チェックポイント分子である「LAG-3」(Lymphocyte Activation Gene-3)による免疫抑制メカニズムが、徳島大学先端酵素学研究所の研究グループにより解明された。PD-1とCTLA-4に続く第3の免疫チェックポイント分子として注目されているLAG-3が、抑制する標的を選別するメカニズムを明らかにした。
1型糖尿病を含む自己免疫疾患発症のメカニズムの解明と治療法の開発につながる成果だ。さらに、LAG-3を標的とすることで、既存の免疫チェックポイント阻害剤とは異なる視点の新規がん免疫療法を開発できる可能がある。
1型糖尿病を含む自己免疫疾患発症のメカニズムの解明と治療法の開発につながる成果だ。さらに、LAG-3を標的とすることで、既存の免疫チェックポイント阻害剤とは異なる視点の新規がん免疫療法を開発できる可能がある。
LAG-3はPD-1とCTLA-4に次ぐ第3の免疫チェックポイント分子
徳島大学先端酵素学研究所の丸橋拓海特任助教、岡崎拓教授らの研究グループは、免疫チェックポイント分子である「LAG-3」(Lymphocyte Activation Gene-3)による免疫抑制メカニズムを明らかにした。詳細は「Nature Immunology」オンライン版に掲載された。 本庶佑博士とJames P. Allison博士が免疫チェックポイント分子PD-1およびCTLA-4を介した免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見によりノーベル賞を受賞したが、LAG-3はPD-1とCTLA-4に次ぐ第3の免疫チェックポイント分子として注目されており、すでにさまざまな疾患の治療標的として世界中で研究開発が進められている。 しかし、LAG-3による免疫抑制のメカニズムはほとんど知られていなかった。研究グループは、LAG-3に結合することで免疫抑制作用を誘導するリガンドとして、ペプチド−MHC class II複合体(pMHCII)を同定し、さらにこの結合がpMHCIIの構造に依存することを見出した。この特徴的なリガンド認識によって、LAG-3が自己免疫疾患発症に関わるヘルパーT細胞を特異的に抑制していることを明らかにした。 今回の研究は、1型糖尿病を含む自己免疫疾患発症メカニズムの理解と治療法の開発に貢献するとともに、LAG-3を標的とした効果的ながん免疫療法の開発につながる可能性がある。LAG-3による免疫抑制メカニズムを明らかに
免疫システムの司令塔であるT細胞の活性化は、T細胞受容体を介した抗原刺激に加え、正または負のシグナルを伝達する免疫補助受容体によって厳密に制御されている。このバランスが破綻すると、病原体を排除できなくなる免疫不全や、T細胞が誤って正常な自己組織を攻撃する自己免疫疾患などの重篤な疾患につながる。 一方で、一部のがん細胞が抑制性免疫補助受容体(=免疫チェックポイント分子)を利用することでT細胞の活性化を抑制し、免疫系による攻撃を回避していることが知られている。実際に、臨床研究の場においてPD-1とCTLA-4に対する免疫チェックポイント阻害剤が複数のがん種に対して劇的な治療効果を示したことから近年大きな注目を集めている。 そのため、他の免疫補助受容体も免疫療法の治療標的として世界中で研究開発が進められているが、LAG-3は、PD-1とCTLA-4に次ぐ第3の免疫チェックポイント分子として特に期待されている。 LAG-3は、ヘルパーT細胞の補助受容体であるCD4類縁分子として1990年に同定された。これまでに岡崎教授らを含むいくつかのグループによって、LAG-3は、活性化T細胞表面に発現すること、リンパ球の活性化を抑制することにより自己免疫疾患の発症を防いでいること、がん免疫を抑制することなどが報告されていた。LAG-3はCIITA発現細胞上のMHCIIに選択的に結合する
LAG-3はCD4よりも高い親和性でMHCIIと結合し、CD4とMHCIIの結合を競合的に阻害することによってT細胞の活性化を抑制すると考えられている。しかし、LAG-3が実際にどのような免疫応答をどのように抑制するかについては、不明な点が多かった。 研究ではまず、LAG-3の細胞外領域を多量体化させた可溶性タンパク質(LAG-3-EC)との結合を指標にした機能発現クローニング法を用いて、LAG-3リガンドの探索を行った。その結果、LAG-3のリガンド発現に重要な遺伝子として、MHC CIITAというMHCII遺伝子の発現を司る主要制御因子を同定した。LAG-3-ECはCIITA遺伝子を導入することで内在性のMHCIIを発現した細胞には結合し、MHCII遺伝子を導入した細胞には結合しなかった。 さらに、LAG-3-ECが結合する細胞に抗原提示させることで誘導されるヘルパーT細胞株の活性化はLAG-3によって抑制されるが、LAG-3-ECが結合しない細胞を用いた場合にはその抑制が認められなかった。MHCII遺伝子を欠損させることでLAG-3-ECの結合がなくなったことから、LAG-3がMHCIIに結合することは確認でき、MHCIIがリガンドとなるためにはCIITAの発現が必要であることが明らかとなった。1型糖尿病を含む自己免疫疾患の治療法の開発につながる可能性
1型糖尿病のモデルであるNODマウスにおいて病態発症の原因となる自己抗原のひとつとしてインスリンB鎖の9-23番目のアミノ酸で構成されるペプチドが同定されている。その中でも、13-21番目までの9アミノ酸を介してMHCIIと複合体を形成した場合(pInsB13-21/MHCII)は安定な構造、12-20番目までのアミノ酸を介した場合(pInsB12-20/MHCII)は不安定な構造のpMHCIIとなることが報告されている。 これまでの実験で、LAG-3はpInsB13-21/MHCIIを強制発現させた細胞には結合し、pInsB12-20/MHCIIを強制発現させた細胞には結合しないことが示されている。この結果から予想される通り、LAG-3阻害抗体を投与したNODマウスにおいて、pInsB13-21/MHCIIに対するヘルパーT細胞応答が亢進し、一方でpInsB12-20/MHCIIに対する応答は変化しなかった。 一般的に、T細胞を産生する器官である胸腺において自己抗原がCIITA依存的に安定な構造を持つpMHCIIとして提示されており、これを認識してしまう自己反応性T細胞は負の選択と呼ばれる仕組みで除去されると考えられている。つまり、安定な構造を持つpInsB13-21/MHCII反応性のT細胞は本来体内に存在しないはずであり、実際にLAG-3阻害抗体非投与条件では、それらT細胞応答はpInsB12-20/MHCIIに対する応答に比べて弱いことが確認された。 今回の研究により、負の選択は不完全であり、一定数の自己を攻撃しうるT細胞が負の選択を逃れて胸腺外に漏れ出てきており、これらをLAG-3が抑制することによって自己免疫疾患の発症を防いでいることが明らかになった。 研究グループは、LAG-3がどのような作用機序でヘルパーT細胞応答を抑制するのかも検討。CD4のMHCIIへの結合をLAG-3がほとんど阻害しなかったことから、LAG-3はCD4との競合阻害とは異なるメカニズムでヘルパーT細胞を抑制することが分かった。LAG-3はT細胞の表面に存在するが、細胞の外側でリガンドに結合する部分と細胞の内側で働く部分(細胞内領域)に分かれている。LAG-3の細胞内領域を欠失させた変異体が抑制能を失ったことから、LAG-3は細胞内領域を介して能動的に抑制性のシグナル伝達を行うことで抑制能を発揮していることが明らかになった。 今回の研究は、1型糖尿病を含む自己免疫疾患発症メカニズムの理解と治療法の開発につながる可能性がある。さらに、LAG-3を標的とすることによって、既存の免疫チェックポイント阻害剤とは異なる視点の新規がん免疫療法の開発できる可能がある。LAG-3 inhibits the activation of CD4+ T cells that recognize stable pMHCII through its conformation-dependent recognition of pMHCII(Nature Immunology 2018年10月22日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]