STAT3阻害薬で糖尿病モデルマウスの血糖値を改善 効率的なインスリン産生細胞作製法を開発 順天堂大学
2018.10.11
順天堂大学は、転写因子STAT3シグナルが、膵前駆細胞や腺房細胞からβ細胞へのリプログラミングを制御することを見出し、STAT3阻害薬を用いて糖尿病モデルマウスの血糖値を改善することに成功した。
短期間により多くのβ細胞をつくる方法を開発
研究グループは、糖尿病の根治を可能とするβ細胞をつくることを目標に研究しており、今回の研究ではSTAT3シグナルがβ細胞へのリプログラミングを制御する新たな分子機構を解明し、短期間により多くのβ細胞をつくる方法を開発するのに成功。マウスの糖尿病を改善することに成功した。 STAT3は、免疫系の制御、細胞の分化、増殖、細胞死といった多様な生体調節機構において重要な役割を担う転写因子だ。 研究は、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の三浦正樹助手、宮塚健准教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもので、詳細は英科学誌「EbioMedicine」オンライン版に公開された。 糖尿病は、膵β細胞から分泌されるインスリンの相対的・絶対的不足により発症する。糖尿病根治のためには失われたインスリン分泌を補う必要があり、インスリン産生細胞であるβ細胞を補充する糖尿病再生医療が注目されている。 膵前駆細胞や腺房細胞は、β細胞と同じ発生学的起源を持ち、β細胞へと分化転換する可塑性のある細胞。研究グループはこれまでの研究で、ヒトやマウスの腺房細胞から膵管様細胞への分化転換で転写因子STAT3の活性化が不可欠であることを見出していた。 このことから、膵前駆細胞や腺房細胞からβ細胞へのリプログラミング過程において、STAT3の活性化が何らかの役割を担っているのではないかと考え、マウス膵前駆細胞株と遺伝子改変マウスを用いて検証を行った。STAT3シグナル抑制でβ細胞数が増加
研究グループはまず、マウス膵前駆細胞株(mPAC細胞)を用いてリプログラミング過程におけるSTAT3活性化の役割を検討した。はじめに転写因子Pdx1またはMafaをmPAC細胞に発現させると、STAT3の活性化(リン酸化)がみられた。 次に、3つの転写因子Pdx1、Neurog3、Mafaを同時にmPAC細胞に発現させると、β細胞新生が誘導されたが、β細胞ではSTAT3の活性化は抑制されていた。Pdx1は膵臓の初期形成に不可欠な転写因子で、成熟β細胞にも強く発現している。Pdx1の遺伝子異常は糖尿病の原因のひとつだ。また、Mafaは成熟β細胞の機能維持に不可欠な転写因子。 このことから、3つの転写因子が発現した細胞で、STAT3シグナルを抑制することがβ細胞新生を誘導するという仮説を立てた。そこで、Pdx1、Neurog3、Mafaを発現させたmPAC細胞でアデノウイルスやSTAT3阻害薬を用いてSTAT3シグナルを抑制したところ、β細胞数が増加し、反対にSTAT3を恒常的に活性化させるとβ細胞数は減少した。これらの結果は、STAT3シグナルの活性化がβ細胞へのリプログラミングを負に制御することを示唆している。STAT3を標的とした新たなβ細胞作製法の可能性
次に、生体内におけるSTAT3の役割を検討するために、β細胞新生モデルマウスでStat3遺伝子を欠失させたところ、Stat3欠失マウスの膵臓では新生β細胞数が増加し、複数の新生β細胞が一塊となった膵島様構造を形成することが判明。さらに、糖尿病モデルマウスの膵臓にアデノウイルスを用いてPdx1、Neurog3、Mafaを発現させ、STAT3阻害薬(BP-1-101)を投与することで高血糖を改善することに成功した。Suppression of STAT3 signaling promotes cellular reprogramming into insulin-producing cells induced by defined transcription factors(EBioMedicine 2018年9月25日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]