「メトホルミン」が作用する細胞内のタンパク質を発見 新薬開発の手掛かりに

2016.09.23
 名古屋大学などの国際研究チームは、糖尿病の治療薬「メトホルミン」が作用する細胞内の輸送体タンパク質を発見したと発表した。メトホルミンの作用の解明に加え、新たな治療薬の開発につながる成果だ。

メトホルミンが細胞内の物質移動や代謝を調整

 メトホルミンは、2型糖尿病の治療薬の中でも世界で多く処方されている経口投与薬だ。筋肉や脂肪組織への糖(グルコース)の取り込みを増やしながら、肝臓での糖新生を減らすことで、血糖値を下げる作用がある。

 メトホルミンには他にも、消化管からの糖吸収の抑制、末梢神経でのインスリン感受性の改善などのさまざまな作用がある。

 研究チームは、メトホルミンに未知の重要な作用標的分子があると考え、メトホルミンが直接結合する分子に着目した。

 名古屋大学のユ・ヨンジェ特任准教授らのチームが発見した、この作用標的分子は「NHE」。生体膜を通して物質を輸送する輸送体タンパク質の1種で、あらゆる細胞にあり、pHやNa+濃度を調節する作用がある。

 一方、「エンドソーム」は、細胞が自身の細胞膜ごと細胞外の物質を取り込む小胞で、細胞内外や細胞内小器官の間で物質輸送を行う。

 エンドソームによる細胞内の循環システムによって、脂肪や炭水化物、コレステロール、タンパク質などを、細胞の内と外や、細胞内小器官の間で輸送できるようになる。

 この輸送は、エンドソーム内のpHに依存するため、それを制御するNHEは、結果として細胞内のさまざまな物質の輸送速度や、代謝速度を微調整している。

 つまり、メトホルミンは、NHEの機能に影響して、細胞内の物質移動や代謝を調整するという作用メカニズムをもつと考えられるという。

メトホルミンが細胞内の作用を世界ではじめて解明

 ユ特任准教授らは、一世代が短く遺伝子の役割を確かめやすい線虫を使って実験した。遺伝子変異を起こした線虫で調べたところ、NHEを作れなくなった線虫にはメトホルミンが効かないことを発見。

 同様にNHEを作れなくなったショウジョウバエも、同じように効かないことを確かめ、メトホルミンがNHEに作用していると結論付けた。

 今回の研究は世界ではじめて、糖尿病およびメトホルミンの作用と、エンドソーム物質循環システムを結びつけたものだ。

 今回の研究は、名古屋大学理学研究科脳神経回路研究ユニットのユ・ヨンジェ特任准教授を中心とする日米韓の国際研究チームによるもの。

 「発見したメカニズムは、ヒトを含む動物全体に共通している。メトホルミン作用のさらなる理解と、2型糖尿病治療薬の改良につながる成果だ」と、研究者は述べている。

 研究チームは、今後はエンドソームNHEを創薬標的とした新しい2型糖尿病治療薬の開発にも取り組むという。また、糖尿病だけでなく、脳機能障害の治療や解明に結びつく可能性もあるという。

名古屋大学理学研究科脳神経回路研究ユニット
NHX-5, an Endosomal Na+/H+ Exchanger, Is Associated with Metformin Actio(Journal of Biological Chemistry 2016年8月26日)

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