高齢患者のインスリン療法導入をもっと積極的に

2013.03.11
 糖尿病患者の50%以上が65歳以上の高齢者であるとされており、高齢者の人口は今後も増加傾向が続いている。高齢者糖尿病に対する適切な治療や、発症の予防策を講じることは非常に重要な課題となっている。

 日本糖尿病協会東京都支部が共催し「インスリンフォーラム 2013」が2月に都内で開催された。小沼富男・順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター糖尿病・内分泌内科教授が、「高齢糖尿病患者へのインスリン療法を見直す-その多面的効果をめざして-」と題し講演した。

 高齢者では、虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患の合併が多い。また網膜症、神経障害などが加わって、理解力や、日常生活動作(ADL)がより低下している場合も多い。また、家族関係などの条件に個人差が多いことも高齢者糖尿病の特色となる。

高齢者に多い食後高血糖 低血糖が見逃されるおそれも

 高齢者では特に、加齢にともない体脂肪が増加し、運動量も低下しがちなため、インスリン抵抗性が亢進している傾向がみられる。食後にインスリンが分泌されるタイミングの遅れ(初期分泌の遅延)が食後高血糖につながっている。

 このような状態では、食事によって上がった血糖を下げることができないため、はじめは膵β細胞からインスリンが過剰に分泌されるが、次第に膵β細胞は疲弊し、食後に高血糖をきたすようになる。

 また、SU薬やインスリンで治療を行っている高齢者では、低血糖が起こりやすいのも特徴だという。低血糖の発作を起こすと心筋梗塞や脳梗塞、転倒による骨折やけがを生じることがあり、さらに重症の低血糖発作は将来の認知症の発症原因にもなる。

 高齢糖尿病患者の低血糖リスクが高い理由は、▽代謝機能などの低下で血糖降下薬が予想以上に効いてしまう、▽食事の量や服薬のタイミングが不規則になりがちである、▽シックデイがたびたび生じることなどが挙げられる。

 高齢者は低血糖を起こしやすい一方で、動悸、頭重感、冷汗、手のふるえなどの症状が出現しにくい場合が多く、めまい、ふらふら感などの症状や呂律がまわらない、片麻痺などの神経症状が現れることがある。

コントロール不良であればインスリン導入を考慮すべき

 経口薬を使っても十分なコントロールを得られない場合には、高齢者でもインスリン治療が必要となる。「特に超高齢者糖尿病、認知症をともなう高齢者糖尿病にはインスリンを積極的に用いるべきです」と小沼先生は強調した。

 「低血糖をおそれるあまり、血糖コントロールが不十分であってはいけません。高齢者であっても、食後高血糖であれば心筋梗塞や脳梗塞の危険は高まるため、低血糖には十分注意しながら、積極的に食後高血糖をコントロールする必要があります」とした。

 SU薬の二次無効例にインスリンを早期に導入すると、ブドウ糖毒性を早期に解除し、ふたたび経口血糖降下薬での管理が可能になることもある。また、シックデイ時のケトアシドーシスへの移行を抑制し、重症化を予防することができる。さらに高次脳機能を含めた自他覚症状を軽減することができる。

 血糖管理が不十分で、高次脳機能障害を認める高齢者糖尿病患者において、海馬の萎縮がなく認知症罹病期間が短い例では、インスリンを用いることで高次脳機能障害が改善する場合もある。

 「最近のインスリン製剤や注入器の進歩は、高齢者へのインスリン療法導入の負担を軽減しています。また、インスリンは家族の協力を得るための重要な手段にもなります」と小沼先生は指摘した。

日本糖尿病療養指導士(CDEJ)に期待

 高齢者の糖尿病の治療においては、合併症を進行させないような指導が大切で、それには、指導にあたる看護師、栄養士などのコメディカルスタッフが個々の患者に対してどれだけ的確に対応できるかが重要となる。

 糖尿病医療の進歩に伴い、治療技術の指導が多様化し、専門性が深くなっている。そのため各職種が密接な連携を保ち、専門性を生かしたアプローチが必要になる。

 糖尿病の療養に関しては、日本糖尿病療養指導士(CDEJ)という資格がある。CDEJ資格認定者が誕生した2001年から12年が経過し、1万7,000人のCDEJが活躍している。

 例えば、インスリン在宅自己注射などにおいても、看護師、管理栄養士などの職種を超えた充実がCDEJの関与により可能になる。

 今後の高齢者医療で求められるのは、介護・福祉なども巻き込んでいくチーム医療だ。看護師・管理栄養士・薬剤師・臨床検査技師・理学療法士の5職種でチーム医療を行うことで、高齢者糖尿病医療から高齢者医療全般にまで発展させていくことが期待されている。

東京都糖尿病協会[(社)日本糖尿病協会 東京都支部]

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