米国小児科学会が小児2型糖尿病ガイドラインを発表

2013.02.04
 米国小児科学会(AAP)は、小児2型糖尿病ガイドラインを発表した。米国では小児や思春期の若者の2型糖尿病が増加している。

 米国小児科学会(AAP)によると、2型糖尿病は成人ではよくみられる疾患だが、過去30年で小児や思春期の若者でも際立って増加している。ガイドラインによると、米国で糖尿病と診断される若年者のうち、3人に1人は2型糖尿病だ(年齢は10~19歳)。

 2型糖尿病を発症する若年患者では、▽肥満の既往が多い、▽2型糖尿病の家族歴がある、▽自己免疫抗体が陰性、▽Cペプチド値が高い、▽発症が緩徐である、▽インスリン抵抗性がある、といった特徴がみられる。

 「米国ではこの20年で肥満が爆発的に増えました。その結果、2型糖尿病を発症する若年者が増えています。若年で糖尿病を発症することは、成長してからの長い年月を、糖尿病合併症を予防しながら生きなければならないことを意味します。適切な診断と治療はとりわけ重要です」と、米国小児科学会のケネス コープランド博士は話す。

 適切な治療を行わないでいると若年者においても、高血圧、脂質異常症、微量アルブミン尿といった糖尿病合併症の病候があらわれ、心血管疾患、慢性腎臓病、糖尿病網膜症、うつ病などを発症しやすくなるという。

 「随時血糖値が250mg/dL以上、あるいはHbA1cが9%を超えていたり、ケトーシスあるいはケトアシドーシスが認められる場合は、ただちにインスリン療法を開始する必要がありますが、そうでない場合は、食事や運動を含む生活習慣改善プログラムを指導するとともに、メトホルミンによる薬物療法を開始します。小児内分泌医と連携しながら治療を行うことが望まれます」と、ジャネット シルバースタイン博士は話す。

 小児の2型糖尿病の治療を行っている小児科医は米国でも不足している。小児内分泌専門医は、2011年時点で3つの州で不在で、22の州で10人以下だった。医療体制の整備も課題となっている。インターネットを利用した診断・治療の連携は、小児内分泌医にアクセスしにくい地域では有用とみられている。

 新ガイドラインでは小児2型糖尿病に対し、早い時期からメトホルミンを開始することを推奨しているが、成人の2型糖尿病と同様に生活習慣の改善も重要視している。

 登録栄養士による食事指導や、1日60分以上の活発な運動への参加、勉学と関係のないテレビ鑑賞やインターネット閲覧などを1日2時間以下に制限することを求めている。

 小児2型糖尿病の発症に、家庭環境が大きく影響している。「家族ぐるみで2型糖尿病の治療を行うことが重要です。家庭全体で食事スタイルを見なすことで、劇的に改善した症例が報告されています。HbA1cが診断時に9.3%だったのが、家庭を訪問してフォローアップした結果、7%に低下した患者がいます」(シルバースタイン博士)。

 「家族ぐるみで食事を見直し、健康的な食生活に変えていくのが効果的ですが、一般的に、健康的な食事はコストが高いという課題を抱える家庭もあります。一方で、ジャンクフードは種類がたくさんあり、低価格でカロリーが高いのです」としている。

 小児や思春期の若者を相手に、生活スタイルの改善を指導するのは難しいという意見もある。「2型糖尿病を治療する小児科医は、思春期の若者をパートナーにして、行動変容へ引き込む必要があります。子供や若者も、健康的な生活が必要であることを理解すれば、指導を受け入れるようになるでしょう」、とシルバースタイン博士は強調する。

 もっと健康的な食事をとり、活発に運動していれば、糖尿病を予防できたはずだと考え、後悔する患者も少なくない。「実際には、生活を改善し適正体重を維持していたとしても、遺伝的素因によって、インスリン抵抗性が亢進しエネルギー消費量が低下しやすく、肥満や2型糖尿病を発症しやすい患者もいます。そうした場合には、適切な薬物療法が必要となります。小児や若年者を診療するときに、医師はこのことを念頭に置いておく必要があります」(シルバースタイン博士)。

米国小児科学会 小児2型糖尿病ガイドライン

 ガイドラインで定義されている主なステートメント(key action statement)は次の通り。対象となる小児患者の年齢は12~18歳とされている。

  1. 臨床医はケトーシスあるいはケトアシドーシスに至った小児2型糖尿病患者、1型・2型糖尿病の区別が不明確な患者、および次の条件のいずれかにあてはまる患者に対して、インスリン療法の開始する。
    a)随時血糖値が250mg/dL以上
    b)HbA1cが9%(NGSP値)を超える場合
  2. 上記以外の患者に対し、食事・運動療法を含む生活習慣改善プログラムの開始、および一次療法としてメトホルミン投与を開始する。
  3. 3ヵ月ごとにHbA1cを評価し、自己測定血糖(SMBG)値あるいはHbA1cに基づく目標値に到達しなかった場合、治療を強化することを提案する。
  4. 以下のいずれかの条件がある場合、患者に血糖自己測定(SMBG)を勧める。
    a)インスリンまたは低血糖リスクのある薬剤を使用
    b)糖尿病治療処方の開始・変更
    c)治療目標に達していない
    d)治療の必要な疾患を併発している
  5. 臨床医は小児2型糖尿病の食事あるいは食事カウンセリングにおいて、Academy of Nutrition and Dieteticsが発行する"栄養実践ガイドに基づく小児の体重マネージメント"の内容を取り入れることを提案する。
  6. 臨床医は小児や若年者に対し、1日60分以上の中等度~強度の運動のほか、娯楽目的のテレビなどの視聴時間を1日2時間までに制限することを勧める。

米国小児科学会(AAP)
Management of Newly Diagnosed Type 2 Diabetes Mellitus (T2DM) in Children and Adolescents

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