ミトコンドリア異常がうつ病や不安障害を引き起こす可能性 炎症性物質を中和すると症状が改善 広島大学
ミトコンドリア障害により炎症性物質インターフェロンが増加 中和するとうつ病や不安障害が改善
広島大学は、慢性痛によりうつ・不安様行動を呈したマウスで、脳の海馬で、細胞の働きに必要なエネルギーを産生するミトコンドリアに障害が生じており、これにより炎症性物質であるインターフェロンが増加しており、この反応がうつ病や不安障害の発症で重要であることを明らかにした。
うつ病や不安障害といった気分障害の治療は長期間にわたり、その治療に抗うつ薬や抗不安薬が処方されているが、30%の患者では効果をえられていない。そうした治療困難例に対する新たな治療薬・治療法の確立が望まれている。
一方、ミトコンドリアは、細胞内小器官として、エネルギー産生のほか、カルシウムイオン濃度の調節、酸化ストレスの軽減などに関与している。ミトコンドリアの機能異常が、慢性炎症を引き起こし、がんや認知症、糖尿病などのさまざまな疾患の発症に関係していることが分かっているが、うつ病や不安障害の発症との関連はよく分かっていない。
そこで広島大学の研究グループは、うつ病や不安障害を呈するモデルマウスを用いて、脳・海馬でミトコンドリアの障害が認められ、この現象を防ぐことでうつ・不安様行動が改善されることを時止めた。
研究グループこれまでは、慢性痛モデルマウスがうつ・不安様の行動を示すことを見出し、その脳内で炎症が生じていることを明らかにしていた。
このモデルマウスの海馬では、炎症性物質であるⅠ型インターフェロンが増加し、脳の免疫担当細胞であるミクログリアが活性化していたが、これらの反応は、ミトコンドリア機能を改善するクルクミン(ウコンなどに含まれるポリフェノール)の投与により、対照群と同じ程度にまで抑制された。
さらに、Ⅰ型インターフェロン受容体に対する中和抗体をモデルマウスに経鼻投与すると、ミクログリアの活性化が抑えられるとともに、うつ・不安様行動が改善した。
細胞の活動に必要なエネルギーの90%以上がミトコンドリアで産生され、周囲の細胞に供給される。ミトコンドリアの正常な働きは、細胞が活動し、生命機能を維持するうえでとても重要で、うつ病や不安障害は、脳の細胞がミトコンドリアの働きが障害されることで活力を失うことが原因になっている可能性がある。
「ミトコンドリアやⅠ型インターフェロンをターゲットにした薬剤は、うつ病や不安障害に苦しむ多くの患者を救う新たな治療薬となることが期待される」と、研究グループでは述べている。
研究は、広島大学大学院医系科学研究科の森岡徳光教授、中島一恵助教、中村庸輝助教、吉本夏輝氏らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Experimental Neurology」にオンライン掲載された。
広島大学大学院医系科学研究科
Mitochondrial dysfunction and type I interferon signaling induce anxiodepressive-like behaviors in mice with neuropathic pain (Experimental Neurology 2023年9月)