軽度認知障害(MCI)の新規スクリーニング法を開発 5分で簡易に測定 「バランスWiiボード」を活用 筑波大学
高齢者のバランス能力を測定する新しい指標を開発
認知症の7割を占めるアルツハイマー病の発症・重症化を予防するために、その前段階である「軽度認知障害(MCI)」の段階から早期介入を始めることが重要だとされるが、MCIはほとんど自覚症状がないため発見が難しい。MCIを早期発見する方法を開発することが、認知症予防のカギを握っていると言える。
認知症やMCIの患者の多くは、歩行異常や転びやすいなど、バランス障害をともなうことが知られている。筑波大学の研究グループは、小児から高齢者までの幅広い年齢層や、アスリートなどさまざまな属性を対象にバランス能力測定を行っており、そのなかで認知機能との関連性に早くから着目してきた。
研究グループは今回、バランス能力を測定する新しい指標「VPS(姿勢安定性視覚依存度指標)」を開発。これを用いることでMCIの高感度なスクリーニングが可能となることを臨床研究で実証した。
VPSの測定には、体の揺れを捉える重心動揺計を用いるが、その計測機器として任天堂ゲーム機用の「バランスWiiボード」を活用している。
研究は、筑波大学医学医療系ニュートリゲノミクスリサーチグループの矢作直也准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Geriatrics」に掲載された。
軽度認知障害(MCI)の高感度スクリーニングが可能に
ゲーム機用の「バランス Wii ボード」を活用
研究グループは、すでに普及している任天堂のゲーム機用の端末である「バランス Wii ボード」の性能の高さに注目。医療機器として認証されている重心動揺計との比較検証を行った結果、同等に使用可能なことを示した。
次に、「バランスWiiボード」からBluetooth通信でパソコンにデータを取り込み解析するWindows用アプリケーションを開発し、それを用いて臨床研究を行った。
臨床研究には、日常生活に支障のない健康なボランティア(56歳以上75歳以下)を、メディア広告やウェブサイトで募集し、49人の被験者が参加した。
研究グループが、認知機能と相関するバランス能力指標として開発したVPSは、重心動揺計のうえに立つことのできる対象者であれば、誰でも5分程度で測定可能な簡便な身体能力指標で、すでに特許出願済みだという。
臨床研究の結果、MoCA-Jの点数とVPS値の間に有意な負の相関性が示され、MoCA-JでMCIと判定された16人では、VPS値が有意に健常群(33人)を上回ることが示された。
また、検査や診断薬の性能を評価するためのROC曲線では、曲線下面積(AUC)が0.8と高い感度と特異性を示した。
認知症の前段階で早期発見し、早期治療の道を開く
「今回の研究により、任天堂のバランスWiiボードを用いて、簡便かつ高感度にMCIのスクリーニングを行うことができることが明らかとなりました」と、研究グループでは述べている。
判定の特異性を高めるため、他の手法との組み合わせを検討したうえで、研究成果を実用化する予定としている。すでに、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発型スタートアップ支援事業「NEDO Entrepreneurs Program(NEP)」に採択され、ウエルシア薬局との共同研究のもと、茨城県つくば市内の同薬局店頭で、同システムによるバランス能力測定・MCI早期発見研究を実施中としている。さらに研究成果にもとづき、筑波大学発ベンチャーの創業を準備中だという。
「日本国内だけで、MCI患者は400万人以上と推定され、全世界ではその10~20倍規模です。このシステムが社会実装されることにより、認知症が前段階で早期に発見され、早期治療介入の道が開かれれば、認知症発症予防に大きく貢献することが期待されます」としている。
筑波大学医学医療系ニュートリゲノミクスリサーチグループ
New balance capability index as a screening tool for mild cognitive impairment (BMC Geriatrics 2023年2月4日)