抗菌薬や薬剤耐性(AMR)の説明はかかりつけ医から 良好な対話が正しい知識を広める AMR臨床リファレンスセンター

2022.09.20
 かかりつけ医をもつ人の83%が、抗菌薬処方時に医師や薬剤師から抗菌薬を飲みきることの説明を受けた経験をもつことが、AMR臨床リファレンスセンターの調査で明らかになった。かかりつけ医がいない人では、61%にとどまった。

 同センターは「かかりつけ医がいる人ほど、抗菌薬の正しい飲み方や薬剤耐性(AMR)に関する知識を得やすくなる」と分析している。「かかりつけ医との良好なコミュニケーションによって、適切な医療の知識を得やすくなります」としている。

AMR対策は診療所などの外来診療でも必要

 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンターは、全国の20歳以上の生活者を対象に、「かかりつけ医と薬の処方」に関する調査を行った。

 「薬剤耐性(AMR)」は、感染症の原因となる細菌に、抗菌薬(抗生物質)が効かなくなること。細菌が体に入り病気を引き起こしたときには、抗菌薬を服用して治療するが、一部の菌は「薬剤耐性菌」に変化することがある。

 また、抗菌薬は病原菌だけでなく、健康バランスを保っている細菌(常在菌)も排除して、細菌同士のバランスも崩してしまうので、薬剤耐性菌が増えやすくなる。

 「薬剤耐性(AMR)」の原因のひとつに、抗菌薬の不適切な使用があげられる。抗菌薬を自己判断で服用したり、医師の処方を守らないと、治らないばかりか、副作用が出たり、薬剤耐性菌が出現することにつながる。薬剤耐性は感染症の治療や予防の妨げになる。

 抗菌薬は、病院よりもクリニック(診療所)で、内服薬として処方されることが多いのが日本の実情だ。そのためAMR対策は、病院だけでなく、診療所などの外来診療の場でも進めることが重要となる。

 「昨今、患者さんが気軽に質問や相談ができ、患者さんと治療目標を共有し、必要なとき、適切に専門の医師や医療機関に紹介できるかかりつけ医の役割が重要視されてきています。そのような背景をもとに、かかりつけ医と、薬の処方・服用、薬剤耐性に関する実態などを調査いたしました」と、研究グループでは述べている。

薬剤耐性の説明を聞いたことのある割合は、かかりつけ医のいる人で高い

 調査はインターネットで2022年5月に行い、対象としたのは、全国の20歳以上で、健康診断や新型コロナのワクチン接種などでの受診を除き、5年以内に病院・診療所・クリニックで診察を受けた人。5つの年代属性で男女各60名ずつが回答した。

 調査では、全体の65%が「かかりつけ医」がいると回答。ただし、50代、60代以上では7割を超えたものの、30代は52%と他の年代に比べ低い結果になった。

 「かかりつけ医」に通う理由は、「家から近い」49%、「話を聞いてくれる」27%、「説明が分かりやすい」26%が多く、年代が高いほど「家から近い」ところを選んでいる。その他、60代以上は「待ち時間が短い」が31%と、他の年代に比べて高くなった。

 また、過去5年間に抗菌薬(抗生物質)を処方されたことがある人に、「医師や薬剤師から抗菌薬(抗生物質)を飲み切ることの説明を受けたことがありますか」という質問をしたところ、「かかりつけ医」がいると回答した人では83%が「ある」と回答。「かかりつけ医」がいないという人は61%にとどまり、その差は22ポイントと大きかった。

 さらに、「抗菌薬(抗生物質)を処方された際、医師や薬剤師から、病原菌の薬剤耐性に関する説明を受けたことがありますか」という質問に対しては、「聞いたことがある」と回答した人は、「かかりつけ医」がいると回答した人では42%、「かかりつけ医」がいないという人では24%だった。

 「かかりつけ医」がいる人の方が、抗菌薬(抗生物質)の正しい飲み方や、副作用、薬剤耐性について、医師や薬剤師から説明を受け、関心をもっている割合が高いことが示された。

 医師から飲み切るよう指示されたにも関わらず、薬の服用を途中でやめて、飲み切らなかった経験のある人は38%に上り、とくに20代では56%と半数を超え、30代でも47%に上った。若い世代ほど、医師や薬剤師の指示を守っていないことがうかがえる。

 「抗菌薬(抗生物質)が必要な病気では、このくらいの期間治療をすれば完治するだろう、という見込みのもとに薬が投与されています。自己判断で服用を中止するなどで治療期間を守らないと、症状が再燃したり、薬剤耐性菌が出現する原因を作ることになるかもしれません」と、研究グループでは述べている。

「かかりつけ医」に通う理由は?

かかりつけ医に通う理由は、「家から近い」48.7%、「話を聞いてくれる」26.9%、「説明が分かりやすい」26.4%が多い。年代別では、年代が高いほど「家から近い」ところを選んでいる。

医師や薬剤師から抗菌薬(抗生物質)を飲み切ることの説明を受けたことがありますか?

かかりつけ医がいる人では、83.1%が「ある」と回答。かかりつけ医がいない人との差は21.7ポイント。
出典:AMR臨床リファレンスセンター、2022年

かかりつけ医との良好なコミュニケーションが重要

 「感染症を引き起こす原因は、細菌とウイルスです。細菌とウイルスは、大きさや仕組みがまったく違います。一般的なかぜやインフルエンザなどは、ウイルスが原因です」と、研究グループは説明している。

 「抗菌薬(抗生物質)は、細菌による感染症の治療に用いられる薬です。かぜをひいて抗菌薬をのんでも、ウイルスには効かないので効果はありません。また、抗菌薬をのむことで、薬が効かない薬剤耐性菌が出現するリスクが高まります。必要な時に、必要な分だけ正しくのむことが大切です」としている。

 調査を総括した同センター情報・教育支援室の藤友結実子室長は、「今回の調査では、かかりつけ医のいる人の方が、処方された抗菌薬の飲み方や副作用についての説明を、医師や薬剤師から受けていることが多いという結果が得られました。また、薬剤耐性についても、聞いたことがある人が多いことが分かりました」と述べている。

 「かかりつけ医をもつことで、日頃から健康や病気について相談しやすくなり、必要な時に適切な医療を受けやすくなります。また、かかりつけ医との良好なコミュニケーションによって、適切な医療の知識を得やすくなります。今回の調査結果はそのことを示しています」。

 「今回、かかりつけ医がいると回答されたのは全体で約65%の方でしたが、今後、ますます多くの方が、かかりつけ医と良好な関係を築いて、健康に関する正しい知識を得ていただきたいと思います。今回の調査では、若い世代の方が、服薬を中断したり、他の人にあげたことがあるといった不適切な使用をする傾向がみられました」。

 「これまでの当センターの抗菌薬意識調査でも、若い世代の方が、抗菌薬に関する正しい知識をもっている人の割合が低いこととも一致しています。当センターでは、今後、若い世代に対する教育啓発活動にも力を入れていきたいと考えております」としている。 AMR臨床リファレンスセンター (国立国際医療研究センター病院)
かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使って薬剤耐性(AMR)対策~ (AMR臨床リファレンスセンター)
抗菌薬意識調査レポート(国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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