睡眠時無呼吸は軽度であっても循環器疾患リスクを上昇 治療効果は糖尿病よりも高い 日本人を20年調査
睡眠時無呼吸は軽症であっても循環器疾患リスクを高める
睡眠時無呼吸は、上気道の閉塞で睡眠中に何度も呼吸が止まる疾患。10秒以上息が止まる状態を無呼吸といい、平均して1時間に5回以上、睡眠中に無呼吸が見られる場合に診断される。
睡眠時無呼吸の治療には、気道が閉塞しないようにマスクから常に空気を送る経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)が用いられるが、この治療は中等症以上でない場合は保険適応にならない。
その理由として、軽症の睡眠時無呼吸についてのリスクの強さが十分に検討されておらず、また、そもそもアジア人を含む国内のエビデンスが少ないことが挙げられる。
順天堂大学などの研究グループは今回、軽症(保険適応に該当しない)と判定される場合であっても、脳梗塞や虚血性心疾患などの循環器疾患発症リスクが高いことを明らかにした。
日本ではこれまで軽症の睡眠時無呼吸の影響については十分に検討されておらず、軽症の睡眠時無呼吸は経過観察とされており、潜在的な循環器疾患の発症リスクを放置してしまっている可能性がある。
睡眠時無呼吸と脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患の関連については、欧米では発症リスク上昇の要因として報告されており、米国では軽症でも関連症状があればCPAP治療の適応となる。
「今回の研究は、睡眠時無呼吸の治療の保険対象を検討するため貴重なエビデンスとなる。軽症の睡眠時無呼吸に対するCPAP治療の保険適用に向けて、循環器疾患発症の早期発見・早期治療が期待される」と、研究グループでは述べている。
研究は、順天堂大学大学院医学研究科公衆衛生学の谷川武主任教授らの共同研究グループ(CIRCS研究)によるもの。研究成果は、「Journal of Atherosclerosis and Thrombosis」にオンライン掲載された。
睡眠時無呼吸が軽度であっても脳梗塞や心疾患の発症リスクは増加
研究グループは今回、閉塞性睡眠時無呼吸の代替指標となる、夜間間欠的低酸素と循環器疾患発症リスクとの関連について、国内の地域住民を対象とした追跡調査を実施した。
睡眠時無呼吸では上気道の閉塞が起こっており、閉塞により換気が十分にできないことで、間欠的に血中の酸素濃度が低下した夜間間欠的低酸素が起きている。
大阪府八尾市、茨城県筑西市、秋田県井川町の3地域で8年間かけて、全対象者への飲酒や喫煙などの生活習慣や血圧や糖尿病などの併存に関する調査を行い、虚血性心疾患および脳卒中の既往がない5,313人(40歳~74歳)を対象に、夜間間欠的低酸素の重症度の指標として、1時間あたり3%以上の酸素飽和度が低下した回数(3%酸素飽和度指数[ODI])を評価し、3%ODI<5と3%ODI≧5の2群に分けて比較した。
調査後から最長20年間での循環器疾患(脳梗塞および虚血性心疾患)の発症状況を追跡して、2群での循環器疾患発症リスクが異なるかを調べた。循環器疾患発症リスクについて、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、年齢、性別、BMI、飲酒歴、喫煙歴を調整した多変量調整ハザード比と95%信頼区間を算出。
その結果、3%ODI<5と比較した3%ODI≧5の循環器疾患発症の多変量調整ハザード比(95%信頼区間)は1.49(1.09~2.03)、心疾患では1.93(1.16~3.19)になった。
脳梗塞では2群のリスクに差が認められなかったが、脳梗塞の病型毎に検討したところ、ラクナ梗塞では2.13(1.08~4.22)とリスクの上昇が認められた。
睡眠時無呼吸の治療効果は、高血圧と同等、糖尿病よりも高い
さらに、3%ODI≧5を治療して、正常範囲にコントロールできた場合に防ぎえたであろう割合は、循環器疾患全体で15.8%、心疾患で26.1%、ラクナ梗塞で30.1%に上ることも分かった。
この予想される治療の効果は、高血圧の治療効果と同等で、禁煙や糖尿病の治療効果よりも高いことが示された。
それから算出される予防可能な割合
以上の結果から、夜間間欠的低酸素は、地域在住の日本人で循環器疾患、とくにラクナ梗塞と心疾患の発症リスクを増加させること、今後の循環器疾患の発症予防で睡眠時無呼吸の早期発見・早期治療が重要であることが明らかになった。
「今回の研究では、現行制度であればCPAP治療の保険適応外と判断される場合(軽度)であっても、ラクナ梗塞や虚血性心疾患の発症リスクが増加することが分かりました。日本での睡眠時無呼吸は潜在患者が300万人とも言われており、軽症を含む睡眠時無呼吸の治療は国内の循環器疾患予防に大きな影響を与えるものであると考えられます」と、研究グループでは述べている。
地域における循環器疾患のリスクに関する研究「CIRCS研究」の成果
今回の研究はCIRCS研究の一環として行われた睡眠時無呼吸の調査。CIRCS研究は、1963年に日本の都市部と農村部の住民を対象に開始された、日本を代表する循環器疾患の疫学研究。当時はまだ普及していなかった血圧、心電図、眼底、血液検査などを組み合わせた先進的な集団検診が実施されている。
まだ睡眠時無呼吸の認知度が低く、さまざまな疾患との関連がよく分かっていなかった時代に、世界に先駆けて行われ、これまでに高血圧、糖尿病、肥満といった生活習慣病との関連について研究している。
「本研究は、脳卒中や虚血性心疾患との関連について約20年間の追跡調査を通じてまとめることができた貴重な研究であり、とくに国内では睡眠時無呼吸と循環器疾患の発症リスクの関連を示したはじめての研究です」と、研究者は述べている。
順天堂大学大学院医学研究科公衆衛生学
Nocturnal Intermittent Hypoxia and the Risk of Cardiovascular Disease among Japanese populations: the Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS) (Journal of Atherosclerosis and Thrombosis 2023年1月14日)
CIRCS研究について (大阪がん循環器病予防センター)