悪性高熱症の新規治療薬を創出 重度の熱中症に対する治療薬になる可能性も 高い水溶性と短い血中半減期

2021.07.14
 順天堂大学などは、悪性高熱症および重度熱中症に対する新規治療薬候補を創出したと発表した。
 より安全な熱中症や悪性高熱症の治療ができるようになる可能性がある。

筋の持続収縮(筋硬直)が起こり高熱を発する悪性高熱症

 順天堂大学などは、1型リアノジン受容体(RyR1)選択的阻害物質であるCpd1が、悪性高熱症および重度の熱中症に対して優れた治療効果をもつことを明らかにした。

 Cpd1は、キノロン系抗菌薬オキソリン酸を構造展開して見出した化合物。筋弛緩薬であるダントロレンに比べてin vitroでのRyR1に対する親和性が5倍上昇し、水溶性が30倍向上している。

 研究では、Cpd1が悪性高熱症のモデルマウスで発症予防および治療効果をもつこと、既存薬に比べて水溶性が高く、血中半減期が短いことを確認した。研究成果は、Cpd1がより安全な悪性高熱症治療薬の有望な候補であることを示している。

 悪性高熱症は外科手術時の吸入麻酔により筋の持続収縮(筋硬直)が起こり高熱を発する重篤な疾患だ。悪性高熱症の主な原因は、筋収縮時に必要な細胞内Ca2+を貯蔵する役割をもつ筋小胞体の、カルシウムイオン(Ca2+)チャネルである1型リアノジン受容体(RyR1)の遺伝子突然変異による異常活性化であり、吸入麻酔薬によりCa2+遊離が起こり筋が収縮することで発熱する。

 治療薬としては筋弛緩薬のひとつであるRyR1阻害薬のダントロレンが使用されているが、点滴静脈注射用の生理食塩水に溶けないことや、血中半減期が長く副作用のリスクが高いという欠点があった。そのため、これらを改善した新しい治療薬が求められている。

Cpd1による悪性高熱症発作の抑制メカニズム

悪性高熱症発作時には吸入麻酔薬によりRyR1チャネルからCa2+遊離が起こり、筋収縮により発熱し、死に至る。Cpd1はCa2+遊離を止めることで、筋弛緩を引き起こし、発熱を抑制し、救命する。
順天堂大学、2021年

悪性高熱症マウスの発熱と死亡を防止

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科細胞・分子薬理学の小林琢也特任研究員、呉林なごみ客員准教授、村山尚准教授と、東京慈恵会医科大学・分子生理学講座の山澤德志子准教授らが、国立精神・神経医療研究センター、東京医科歯科大学、Mount Sinai Medical Center、University of Leeds、京都大学、大阪大学と共同で行ったもの。研究成果は、英科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載された。

 研究グループは、化合物ライブラリからの候補物質の選抜と構造展開により、ダントロレンとは構造が異なる新たなRyR1阻害薬の開発を進めてきた。

 今回の研究では、新たに治療薬の候補として見出したRyR1阻害物質Cpd1の悪性高熱症に対する治療効果を明らかにするために、タイプの異なる悪性高熱症モデルマウスを用いて調べた。

 まずCpd1の治療効果を調べるため、新たに悪性高熱症モデルマウス(RYR1-p.R2509C)を作出。このマウスはRyR1チャネル活性が高く、イソフルラン麻酔により悪性高熱発作を起こし体温が急上昇して死亡する。このモデルマウスに麻酔をかけた後にCpd1を投与したところ、発熱が抑えられ、死亡を防げた。

高い水溶性と短い血中半減期

 さらに、このマウスは外気温の上昇による熱中症を引き起こすが、Cpd1の投与により熱中症発作による死亡も防げた。同様な結果は別の悪性高熱症モデルマウス(RYR1-p.R163CおよびRYR1-p.G2435R)でも得られた。

 なお、Cpd1は生理食塩水への溶解性がダントロレンに比べて大きく改善している。また、マウス血中半減期は約10分と非常に短く、筋弛緩の副作用も投与後1時間以内に消失する。

 これらにより、Cpd1は悪性高熱症に対して優れた治療効果を示すとともに、既存薬の欠点を改善していることを明らかにした。

Cpd1の救命効果

A. Cpd1投与群は濃度依存的に発熱を強く抑制した。
B. Cpd1投与では3mg/kgでは6割(10匹中6匹)が、10mg/kgでは8匹全例が生存した。
C. Cpd1のマウス血中濃度変化。Cpd1は時間とともに血中濃度が急速に減少した。半減期は約10分だった。
D. Cpd1の筋力低下作用。Cpd1投与群は投与後10分で筋力低下が見られたが、60分後には回復した。
順天堂大学、2021年

重度の熱中症に対する治療薬になる可能性も

 悪性高熱症は吸入麻酔により急激に発症するため、迅速な対応が必要だ。一方で、症状の回復後は速やかな薬物の消失が求められる。

 Cpd1はダントロレンに比較して高い水溶性と短い血中半減期を有することから、より安全に使用できる悪性高熱症の治療薬になる可能性がある。研究グループは、Cpd1のさらなる構造展開による治療薬開発を進めている。

 また、重篤な症状を示す熱中症の患者のなかには、RYR1遺伝子の突然変異が報告されている。また、RyR1の異常活性化は筋ジストロフィーをはじめとした筋疾患でも報告されている。

 そのため、Cpd1は重度熱中症や種々の筋疾患に対する治療薬になる可能性もあり、今後の研究が進めば、将来的に臨床応用されることが期待できるとしている。

順天堂大学大学院医学研究科細胞・分子薬理学
A novel RyR1-selective inhibitor prevents and rescues sudden death in mouse models of malignant hyperthermia and heat stroke(Nature Communications 2020年7月13日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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