糖尿病がアルツハイマー病を悪化 糖尿病が脳のインスリン抵抗性とDNAの酸化損傷を誘発 九州大学

2021.07.13
 生体防御医学研究所は、糖尿病が脳内のインスリン抵抗性とDNAの酸化損傷を引き起こすことで、アルツハイマー病(AD)の病態を増悪させることを明らかにした。
 慢性的な高脂肪食の給餌によって誘発された2型糖尿病状態が、海馬のインスリン抵抗性を引き起こすことで、ADのノックインマウスモデルであるAppNL-F/NL-Fマウス脳に見られるADの前駆病態を著しく悪化させることが示された。

脳に軽度のアルツハイマー病の病理変化があると高リスクに

 研究は、九州大学生体防御医学研究所の中別府雄作主幹教授の研究グループによるもの。研究成果は、英国解剖学会誌「Aging Cell」にオンライン掲載された。

 多くの疫学研究から、糖尿病がアルツハイマー病(AD)発症の主要な危険因子となることが指摘されている。しかしながら、ADのトランスジェニックマウスモデルを用いた研究では、これを支持する結果と否定する結果の両方が報告され、なぜ糖尿病がADの危険因子となるのかそのメカニズムは不明でした。

 研究グループは、トランスジーンに由来する潜在的なアーティファクトを克服するために、AppNL-F/NL-Fノックインマウスモデルを用いて研究を行った。このAppNL-F/NL-Fマウスは、アミロイド前駆タンパク質(APP)が過剰に産生されることはなく、生後半年から大脳や海馬にAβプラークが沈着し、生後1年半で非常に軽度の認知障害を示すADの初期モデルだ。

 APPは、神経細胞のシナプスに濃縮されている膜タンパク質で、シナプス形成、神経可塑性、抗菌活性、鉄排出の調節などに関わるとされている。また、Aβプラークは、神経細胞が何らかの要因でAβを過剰に生成し、それが最終的には不溶性の凝集体となったもの。アルツハイマー病患者の脳に存在する老人斑の大部分はAβプラークだ。

Aβの脳内沈着があり糖尿病を発症するとアルツハイマー病の発症と進展が早まる

 野生型とAppNL-F/NL-Fマウスを、生後半年から通常食または高脂肪食(HFD)で1年間飼育したところ、HFDで飼育した野生型とAppNL-F/NL-Fマウスはともに同程度に肥満となり、2型糖尿病を発症した。

 HFDで飼育したAppNL-F/NL-Fマウスのみが顕著な認知機能障害を示し、さらに海馬のインスリン抵抗性に加えて、Aβ沈着とミクログリオーシスの著しい増悪が認められた。活性化ミクログリアは、活性酸素や炎症物質を産生し、神経炎症を増悪し、正常な神経細胞なども貪食する。こうした細胞障害性のミクログリアの増生がミクログリオーシスだ。

 HFDで飼育したAppNL-F/NL-Fマウスの海馬では、海馬歯状回の顆粒細胞層が萎縮し、顆粒細胞の核にグアニン塩基の酸化で生じた8-オキソグアニンの蓄積が顕著に増加していた。

 HFDで飼育したAppNL-F/NL-Fマウスでは、Aβ結合タンパク質の1つであるトランスサイレチン(TTR)の発現が顕著に減少しており、TTRの枯渇がHFDで飼育したAppNL-F/NLの海馬におけるAβ沈着の増加の原因であることが示唆された。

 今回の発見は、糖尿病を予防することでADの発症や進展をコントロールできることを示しており、新たな予防と治療法の開発が期待される。「糖尿病患者の皆さんにアルツハイマー病を発症する危険性があるのではなく、軽度のアルツハイマー病の病理変化、すなわちAβの脳内沈着がある場合に糖尿病を発症することで、アルツハイマー病型認知症の発症と進展が早まると考えられます」と、研究者は述べている。

糖尿病がアルツハイマー病を悪化させるメカニズム

慢性的な高脂肪食の給餌によって誘発された2型糖尿病状態が、海馬のインスリン抵抗性を引き起こすことで、ADのノックインマウスモデルであるAppNL-F/NL-Fマウス脳に見られるアルツハイマー病(AD)の前駆病態を著しく悪化させる。
出典:九州大学生体防御医学研究所、2021年

九州大学生体防御医学研究所
A high-fat diet exacerbates the Alzheimer's disease pathology in the hippocampus of the AppNL−F/NL−F knock-in mouse model(Aging Cell 2021年7月10日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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