【新型コロナ】デルタ株が変異したN501Sを確認 国内で第1例目の報告 感染および伝播性の増加を懸念
医科歯科大新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクトの成果
東京医科歯科大学は、2021年7月上旬~7月末の期間に、同大学病院に入院した、または通院歴のあるCOVID-19患者から、感染伝播性の増加が懸念される変異(L452R)を有するデルタ株(B.1.617.2系統)の市中感染事例が急増していることを確認した。
さらには、8月中旬のCOVID-19患者から、アルファ株主要変異(N501Y)の類似変異であるN501S変異を有する新たなデルタ株の市中感染事例も確認した。
N501Y変異は、感染および伝播性の増加が懸念されている変異であり、とくにアルファ株(B.1.1.7系統)については、二次感染率の増加や重症・死亡リスクの増加の可能性が示唆されている。今回発見したN501S変異もN501Yの類似変異であることから、N501Y変異と同様の特徴を有する可能性がある。
2021年5月~6月末に、関東圏で感染伝播性の増大に関わる【N501Y変異】を有するアルファ株と、【L452R変異】を有するデルタ株の市中感染共存事例が継続されていたが、アルファ株からデルタ株への明らかな置き換わりは確認されなかった。
ところが、6月下旬からはデルタ株の市中感染事例が増加し、それにともなうかたちでアルファ株の市中感染事例が徐々に減少する傾向が認められた。7月中旬以降はデルタ株の市中感染事例が急増し、アルファ株のそれが激減したことから、アルファ株からデルタ株への遷移が急速に進んでいると考えられる。
今回の研究では、2021年7月上旬~7月末に入院もしくは通院歴のある患者由来検体から、デルタ株(B.1.617.2系統)の市中感染事例の急増を確認した。さらには、8月中旬の患者由来検体から、アルファ株主要変異(N501Y)の類似変異であるN501S変異を有する新たなデルタ株の市中感染事例を確認した。該当する株が検出された患者は、海外渡航歴はなかった。
7月中旬以降のデルタ株は、B.1.617.2系統のみが確認されていることから、現時点のデルタ株による市中感染拡大におけるAY.4系統株の寄与は低いと考えられる。
今回確認したアルファ株主要変異(N501Y)の類似変異であるN501S変異を有する新たなデルタ株(B.1.617.2系統)は、国内で新たに変異を獲得した可能性が極めて高い。
N501S変異を有するデルタ株(B.1.617.2系統)は、世界では8例のみ報告されており、国内では第1例目の報告となる。現時点では変異発生要因の判断が難しく、さらなる性状解析および疫学調査が必要となる。
同大学新型コロナウイルス全ゲノム解析プロジェクトでは、2020年7月以降に同大学医学部附属病院に入院歴のあるCOVID-19患者検体に含まれるSARS-CoV-2 の全長ゲノム配列を解析し、(1)ウイルス学的特徴、(2)COVID-19疫学データ、(3)臨床的特徴を紐付けすることで、COVID-19の病態解明および公衆衛生上の意思決定への貢献を目的として解析を進めている。
今回の研究は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の武内寛明准教授・医学部附属病院病院長補佐、難治疾患研究所ゲノム解析室の谷本幸介助教、リサーチコアセンターの田中ゆきえ助教、ウイルス制御学分野の北村春樹大学院生および関口佳氏らによる、同大学病院入院患者由来SARS-CoV-2全ゲノム解析プロジェクトチームが、統合臨床感染症学分野の具芳明教授、木村彰方理事・副学長・特任教授および貫井陽子医学部附属病院感染制御部・部長と共同で行ったもの。