1. 糖尿病の発病年齢
 糖尿病外来に多くの人達が集まり、また糖尿病外来をやっていた各地のクリニックにも多くの人達が集まっていたので、それらの人達で、糖尿病が始まったときから診ている人や、少なくとも発見されてから1、2カ月で外来を訪れた人達の統計をとった。1974-75年のことでクリニックは弘前大学第3内科、秋田県由利組合病院消化器科(小松寛治副院長)、会津若松竹田綜合病院内科(栗城篤科長)、郡山市太田綜合病院西の内病院内科(阿部祐五科長)、水戸協同病院内科(内海信雄科長)の症例である。男性1,587名、女性1,184名で、2歳ごとの年齢分布で示すと
図1のようになった。
2. 診断時の重症度
 糖尿病と診断されたとき空腹時血糖値を診断時年齢ごとに示すと
図2のようになった。
 当然のことながら20歳未満発病者では大部分が200mg/dL以上で、年齢が多くなるほど120mg/dLや100mg/dL以下の症例も多くなっている。
表1 糖尿病診断時年齢
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診断された月  
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<30歳
  
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30-69歳
  
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    男性
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    女性
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    合計
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    男性
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    女性
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    合計
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1月  
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12  | 10  | 22  |    | 130  | 80  | 210
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2月  
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11  | 11  | 22  |    | 114  | 69  | 183
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3月  
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7  | 9  | 16  |    | 143  | 88  | 231
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4月  
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5  | 6  | 11  |    | 55  | 56  | 111
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5月  
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4  | 9  | 13  |    | 74  | 61  | 135
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6月  
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5  | 12  | 17  |    | 76  | 33  | 109
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7月  
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8  | 7  | 15  |    | 76  | 50  | 126
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8月  
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14  | 2  | 16  |    | 65  | 54  | 119
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9月  
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3  | 9  | 12  |    | 97  | 66  | 163
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10月  
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6  | 10  | 16  |    | 82  | 72  | 154
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11月  
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9  | 10  | 19  |    | 88  | 70  | 158
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12月  
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9  | 11  | 20  |    | 89  | 62  | 151
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合計  
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93  | 106  | 199  |    | 1089  | 761  | 1850
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3. 糖尿病診断の季節
 糖尿病、特に小児糖尿病はクリスマスの季節や冬に多いといわれている。そこで我々も発病の月日の明確な症例について集計を行った。その結果は
表1のように30歳未満の若年症例では12月、1月、2月が多く、4、5月に少ない傾向がみられた。30歳以上の場合は、男性では1月より3月までが多く4月が少なく、女性では3月が多く6月が最も少なくなっていた。男性で1、2、3月に多いのは正月や、その他の行事で飲食する機会、また健診の機会が多いことが関係しているものと思われる。もしも季節が影響するとすれば女性でも同様な傾向がみられてよいはずでであるが、6月で少ないほかはほぼ同様であった。したがって、季節により発病が異なるというのは気温などよりも社会風習による影響の方が大きいことを示している。
4. 糖尿病性網膜症の頻度
 それぞれのクリニックにはすぐれた眼科医がおられたので眼底所見については定期的に検査していた。その結果、網膜症が早く現れる人と現れない人がいることに気付いた。
 そこで糖尿病の発病年齢別に網膜に病変の現れた時期の統計をとって、それを元に図を描いてみると、
図3のように10歳、20歳代に発病した人達では網膜症が急速に進み10歳代発病例では15年後には全例に網膜症が認められた。10歳未満例は例数が少ないことと、血管が若く網膜症が起こりにくいためと思われた。30歳代発病例では網膜症が少なくそこに谷がみられるのは、この年齢の発病例では高血糖状態が比較的軽く、また年齢的にも健康に関心をもつ年齢でもあるためと思われる。50歳以上の高齢で発症した症例では高血圧の合併、また血管の硬化などもあって網膜症の頻度も増すものと思われる。
図3 糖尿病の発症年齢別、罹病年数別にみた網膜症の頻度
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 我々は網膜症についていろいろの経験をしたので、当時、東京大学分院眼科におられた福田雅俊助教授に話し、糖尿病性網膜症に関するシンポジウムを開くことにした。スポンサーはエーザイKKで当時企画?T部部長であられた小川正城部長に世話になった。期日は1975年11月28、29日、高輪プリンスホテルで行った。
 プログラムは
図4のようで、その内容は
図5のような単行本(355頁)で出版された。その後も筆者は糖尿病網膜症には関心をもち続けている。
5. 糖尿病腎症の透析療法の統計
 1960年頃までは有効な降圧剤も利尿剤もなく、糖尿病腎症が進行し、高血圧、高度の蛋白尿、浮腫になると拱手傍観、無力を嘆くしかなった。米国で人工腎臓が開発されて、いよいよ透析療法が始まり、1970年代にはわが国でも広く行われるようになった。
 日本透析医学会では1968年以来の透析症例の統計を発表している。68年は215例、71年1,826例となり、83年には5万例を超え、90年には10万例を超え、2000年には20万例を超え、毎年1万例ずつ増えている。これらのうち糖尿病腎症によるものは
図6のように85年には5,812例、88年には1万例を超え、2000年には5万例を超え、現在は6万例を超えている。透析例に占める糖尿病腎症の割合は83年には7.4%であったが、86年には10.5%、91年には16.4%、95年には20.4%、99年には25%、2003年には29%となっている。
図6 糖尿病腎症の慢性腎透析療法症例数 
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日本透析医学会統計より作図
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 また年度の新規透析症例をみると、糖尿病腎症の占める割合は1979年9.4%、83年15.6%、86年21.3%、94年30.7%と上昇、98年には腎炎を超え10,729例で35.7%となり、それ以降も上昇を続け現在は40%を超えている。
図7 糖尿病腎症の年度新規透析導入症例の年次推移 
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日本透析医学会統計より作図、 ↑は腎症の%が腎炎の%以上となった年度、1998年を示す
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 透析には年間550万から600万円の医療費がかかるので、透析をする糖尿病腎症が毎年5,000例ずつ増加すると300億円ずつ医療費がかさむことになる。このことからも、血糖のコントロールにつとめ、血圧、尿蛋白の減少に注意を払うことが重要である。