高齢者の自覚症状と生活機能障害・死亡との関係を明らかに 高齢者で多い自覚症状は? 藤田医科大学

2025.06.10
 藤田医科大学は、高齢者の自覚症状と、その後の生活機能障害あるいは死亡との因果関係を、大規模かつ長期にわたる追跡調査により明らかにした。

 要介護認定あるいは死亡との関連は、自覚症状がない高齢者と比較すると、「呼吸・循環器症状」が1.56倍、「神経症状」が1.36倍、「排泄関連症状」が1.34倍、それぞれ強かった。

 「すでに診断・治療を受けている人も含め、多くの高齢者が自覚症状を十分に医療者へ伝えきれていない可能性がある」と、研究者は指摘している。

高齢者の自覚症状と生活機能障害あるいは死亡との関係を調査
もっとも関連が強いのは呼吸・循環器症状

 藤田医科大学は、高齢者の自覚症状と、その後の生活機能障害あるいは死亡との因果関係を、大規模かつ長期にわたる追跡調査により明らかにした。

 研究グループは、愛知県豊明市の高齢者1万199人を対象に調査した。対象者は、女性が52.4%、平均年齢(標準偏差)は73.7歳(6.0歳)で、5年間の期間中に、17.6%(1,793人)が新たに要介護認定を受け、9.1%(931人)が死亡した。

 解析した結果、要介護認定あるいは死亡と関連が強く示されたのは順に、▼呼吸・循環器症状(息切れ、むくみ)、▼神経症状(めまい、頭痛)、▼嚥下・睡眠関連症状(むせ、食欲不振、不眠)、▼筋骨格系症状(腰痛、関節痛・しびれ)、▼視聴覚症状(視力・聴力低下)だった。

* 年齢、うつ状態や慢性疾患の有無なども調整したうえでの分析結果

 要介護認定あるいは死亡との関連は、自覚症状がない高齢者と比較すると、「呼吸・循環器症状」が1.56倍、「神経症状」が1.36倍、「排泄関連症状」が1.34倍、それぞれ強かった。

 高齢者自覚症状(SGC:Subjective Geriatric Complaints)の件数は、1人あたりの平均1.7で、もっとも多くみられたのは「腰痛」(32.8%)、次いで「視覚障害」(27.1%)、「関節痛」(20.8%)、「難聴」(16.1%)、「排尿障害」(15.4%)だった。参加者が医療介入を求めた、あるいは後遺症を経験した一般的な病状は、「高血圧」(40.6%)、「視覚障害」(19.6%)、「脂質異常症」(14.6%)、「糖尿病」(12.7%)だった。

要介護認定あるいは死亡と関連する高齢者自覚症状
高齢者のどのような症状が自立した生活の悪化と関連するかを示している
横軸は5年間の経過年数、縦軸は生活機能障害(要介護認定)あるいは死亡が発生せず生活している人の割合を示す。各線は自覚症状の有無および種類別のグループを示しており、症状の違いによって生活機能や生命への影響に差があることが分かる。
出典:藤田医科大学、2025年

 「加齢によってさまざまな臓器が加齢性変化を起こすが、各個人によって加齢の影響は一律ではない。健康長寿を維持するためには、加齢によって生じる症状を適切に把握し、早めの対応を行うことが重要と考えられる」と、研究者は述べている。

 「調査開始時点では要介護状態でなかった高齢者の症状が、将来の要介護認定や死亡にどう関わるかを明らかにしたこの研究は、高齢者が健康を維持するうえで必要な心構えをもつことや、早期の医療的アプローチ向上に寄与することが期待される」としている。

 研究は、藤田医科大学医学部認知症・高齢診療科の武地一教授、保健衛生学部リハビリテーション学科の都築晃氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Age and Ageing」にオンライン掲載された。

高齢者自覚症状(SGC)により高齢者の早期の変化をとらえられる
多くの高齢者が自覚症状を十分に医療者へ伝えきれていない可能性が

 これまでにも加齢にともなう健康課題として「老年症候群」「フレイル」「多病(マルチモビディティ)」などの概念が提唱され、研究と臨床実践が行われている。なかでも老年症候群は以前から、せん妄、褥瘡、転倒と骨折、尿失禁などが示されていた。

 しかしその後、動悸、むくみ、便秘などの症状やポリファーマシーなどの多病と関連する現象も老年症候群に含められる場合もあり、焦点があいまいになっていることが懸念されていた。

 そこで研究グループは今回、「高齢者自覚症状(SGC)」という新たな視点から、高齢者にあらわれる早期の段階と考えられる症状に着目。SGCが、その後の生活機能障害や死亡のリスクになるのか、またどのような症状がもっともリスクになるのかを立証することを目的にして調査した。

 2016年に豊明市で実施された調査で、その時点で要介護認定を受けていなかった65歳以上の住民1万199人を対象に、「あなたの日常生活に支障をきたすおそれのある症状は何ですか?」と質問し、13の自覚症状から該当するものを複数選んでもらった。その後、統計的に同じ傾向を示す6つの症状群(因子)に分類し、2022年1月までの5年間の要介護認定あるいは死亡との関係を分析した。

 今回の研究対象者は、要介護認定を受ける前の高齢者であることや5年間の経過を追っていることから、「高齢者自覚症状」は早期の変化をとらえるものとして有用であることが示されたとしている。

 とりわけ老年症候群とひとくくりにしてしまうことで、曖昧になりがちで、具体的・個別的な介入や分析が行いにくくなっていた点を「高齢者自覚症状」と定義して仕分けることにより、より効果的な対策を行う出掛かりにもなりえる。

 また、すでに診断・治療を受けている人も含め、多くの高齢者が自覚症状を十分に医療者へ伝えきれていない可能性があり、症状が見過ごされている現状も示唆された。

 「今後は、こうした症状に対する早期対応が、介護予防や死亡リスクの低減につながる可能性がある。さらなる地域での実践や研究が期待される」と、研究者は述べている。

藤田医科大学医学部 認知症・高齢診療科
藤田医科大学保健衛生学部リハビリテーション学科
Subjective geriatric complaints as predictors of disability and mortality in community-dwelling older adults: a 5-year cohort study (Age and Ageing 2025年6月5日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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