SGLT2阻害薬の早期導入により急性冠症候群(ACS)のイベントを抑制 リアルワールドデータで確認 国循
急性冠症候群(ACS)に対するSGLT2阻害薬の早期導入の有効性を示唆
急性冠症候群(ACS)は、動脈硬化により形成された不安定プラークが破綻し、そこに血栓ができることで冠動脈内腔が急速に狭窄または閉塞する病態で、全世界的にも主要な死亡の要因のひとつになっている。
これまで、経皮的冠動脈形成術や薬物治療の普及により、急性期の死亡率は低下してきたが、一部の患者では、心機能の低下などにより、退院後の再入院や死亡につながる場合もある。
一方、SGLT2阻害薬は、従来は糖尿病治療薬として使用されていたが、心不全患者に対しても、複合心血管イベントの減少との関連が報告され、近年使用が増加している。
しかし、ACSに対するSGLT2阻害薬の早期導入の有効性について、これまで大規模な報告はなかった。
そこで国立循環器病研究センターなどの研究グループは今回、「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」を用いて解析を行った。NDBは、日本全体の入院・外来を含むほぼすべての保険診療を含むデータベース。
対象となったのは、NDBに登録された、2014年度~2020年度にACSで初回入院し、直近で心不全入院のない患者38万8,185人で、うち11万5,612人が重症心不全だった。
主要エンドポイントは、全死亡、心不全もしくはACSの再入院の複合アウトカムとした。入院中の利尿剤や機械的補助循環などの治療の有無で重症心不全がある群とない群に患者を分け、入院14日以内のSGLT2阻害薬開始とアウトカムとの関連について、傾向スコアマッチングを行い、群ごとに解析を行った。
ACSに対するSGLT2阻害薬の早期導入はとくに心不全患者でイベント抑制に有用 試験が進行中
その結果、心不全あり群で、SGLT2阻害薬の早期開始は主要エンドポイントの減少と関連していた。重症心不全があり、SGLT2阻害薬を使用した群では、使用しなかった群に比べ、主要エンドポイントのハザード比(HR)は0.83だった[95%CI 0.76~0.91、P<0.001]。
一方で、心不全なし群では、SGLT2阻害薬の使用と主要エンドポイントとの関連はみられなかった。重症心不全のない群ではHRは0.92となり、有意差はみられなかった[95%CI 0.82~1.03、P=0.16]。
加えて、心不全あり群のうち、糖尿病患者でのSGLT2阻害薬の開始は、日本でよく用いられているDPP4阻害薬の開始と比較しても、HRは0.83となり主要エンドポイントの減少と関連していた[95%CI 0.69~1.00、P=0.049]。
実線:SGLT2阻害薬開始群 点線:SGLT2阻害薬非開始群
研究は、国立循環器病研究センター 情報利用促進部の金岡幸嗣朗室長、岩永善高客員部長、奈良県立医科大学 公衆衛生学講座の今村知明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Heart Journal - Cardiovascular Pharmacotherapy」に掲載された。
「本研究から、近年の日本で糖尿病や心不全に対する処方が増えているSGLT2阻害薬の急性冠症候群患者に対する入院早期からの導入は、とくに心不全をともなう患者で、その後のイベントを抑制できる可能性が示唆されました。現在、急性冠症候群患者に対するランダム化比較試験が進行中であり、その結果が待たれます」と、研究グループでは述べている。
国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 情報利用促進部
Sodium–glucose cotransporter 2 inhibitor use in early-phase acute coronary syndrome with severe heart failure (European Heart Journal - Cardiovascular Pharmacotherapy 2023年5月12日)