SGLT2阻害薬の開始時の利尿薬の使用が腎機能の初期低下と関連 2型糖尿病をもつCKD患者を解析 日本腎臓学会の大規模データベースで検証
日本腎臓学会の大規模データベースJ-CKD-DB-Exにより新たなエビデンスを創出
「J-CKD-Database」は、日本腎臓学会が行う厚生労働省臨床効果データベース整備事業として実施されているもので、慢性腎臓病(CKD)対策のため、これまで同学会が構築してきた腎臓病総合レジストリーの課題を補完すると同時に、縦断研究も可能にしうる、新規の全国規模の包括的CKD臨床効果情報DBの構築を目的としている。
「J-CKD-DB-Ex」は、CKD患者を対象とした包括的縦断データベースで、全国20数大学が参加し、CKD患者を自動抽出するアルゴリズムを開発、電子カルテシステムSS-MIX2を用いてデータを直接収集している。
研究グループはこれまで、このデータベースを活用し、糖尿病合併CKD患者で、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬(現在では一部の薬剤は心不全、CKD患者にも適応)は、投与開始時のタンパク尿やRAS(レニン-アンジオテンシン系)阻害薬の使用の有無、薬剤を投与する前の腎機能の変化とは関係なく、腎保護効果を発揮することを報告している。
一方でSGLT2阻害薬は、投与初期にGFR(糸球体濾過量)の低下をきたすことが知られており、この現象はイニシャルドロップあるいはイニシャルディップと呼ばれている。
この初期のGFR低下に関連する要因については、さまざまな報告があるものの、十分には解明されておらず、またSGLT2阻害薬の投与開始後のGFR初期低下が腎機能に与える影響については、DAPA-CKD試験、EMPA-REG OUTCOME試験、CREDENCE試験などの大規模ランダム化比較試験(RCT)による事後解析で、その程度が腎予後に影響を与えないことが報告されている。
しかし、これらのRCTでは、ほとんどがRAS阻害薬を服用し、タンパク尿を認める患者に限定されており、ある一時点でのGFR測定(投与2週間後など)のみを初期低下と定めており、リアルワールドデータでの検証は十分ではなかった。
SGLT2阻害薬の投与開始前に1年以上登録されていた2型糖尿病をもつCKD患者を解析
そこで研究グループは今回、J-CKD-DB-Exを用いて、SGLT2阻害薬の投与開始前に1年以上継続的に登録されていた2型糖尿病をもつCKD患者2,053人を解析した。
対象となった患者の平均年齢は62.2歳、男性は57.4%で、約7割がタンパク尿陰性だった。RAS阻害薬の使用率は約5割だった。
主要評価項目はGFRの初期低下(イニシャルドロップ)に関係する因子の同定、副次評価項目はイニシャルドロップの大きさと複合腎エンドポイント(持続的なGFR50%以上の低下またはGFR15mL/min/1.73m²未満への低下)との関連とした。
イニシャルドロップは、SGLT2阻害薬投与開始直前のGFRから投与開始後2ヵ月以内の最低GFRを引いた差と定義した。
重回帰分析した結果、イニシャルドロップに関係する因子として、RAS阻害薬や利尿薬の併用、尿中タンパク高値、およびSGLT2阻害薬の投与開始前のGFRの変化が明らかになった。 [β=-0.609、P=0.039;β=-2.298、P<0.001;β=-0.936、P=0.048;β=-0.079、P<0.001]
また、イニシャルドロップの大きさで患者を四分位にわけると、イニシャルドロップがもっとも大きかった四分位群(Quartile 4)は、他の群に比べて、その後の複合腎エンドポイントの発生率が高いことが分かった。 [ログランク検定、P<0.001]
SGLT2阻害薬の投与開始時に利尿薬を使用していることがもっとも強く関連 GFRのイニシャルドロップが大きいと腎複合エンドポイントの発生リスクが高い
SGLT2阻害薬の投与開始時に利尿薬を使用していることがGFRの初期低下ともっとも強く関連
SGLT2阻害薬の腎臓保護効果は、多くの大規模臨床試験によって実証されている。一方で、SGLT2阻害薬は投与開始後に、イニシャルドロップと呼ばれるGFRの初期低下をきたすことが知られているが、どのような患者にこの現象が起こりやすいか、またイニシャルドロップが腎予後に与える影響についてはよく分かっていなかった。
研究グループは今回、リアルワールドデータの解析を通じて、SGLT2阻害薬の投与開始時に利尿薬を使用していることが、イニシャルドロップにもっとも強く関連していることを明らかにした。さらに、過度のイニシャルドロップをきたす患者は、そうでない患者に比べて、腎イベントの発生リスクが相対的に高いことも分かった。
なお、日本腎臓学会『CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation』では、「CKD患者では利尿薬を使用している割合が高く、SGLT2阻害薬併用後には腎機能のモニタリングや電解質のチェックを行い、利尿薬や降圧薬の減量など用量調節が重要である」と述べられている。
研究は、横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学の金岡知彦診療講師、涌井広道准教授、田村功一主任教授、川崎医科大学高齢者医療センターの柏原直樹病院長、同学腎臓・高血圧内科学教室の長洲一准教授、順天堂大学大学院医学研究科総合診療科学の矢野裕一朗教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Diabetes, Obesity and Metabolism」に掲載された。
電子カルテシステムSS-MIX2は、厚生労働省による医療情報の電子化・標準化をすすめる事業の一環であり、電子カルテ情報から検査値や薬剤情報、患者基本情報などの大量データを自動収集するシステム。現時点で14万人以上のCKD患者のデータがJ-CKD-DB-Exに含まれている。
「日本でのCKD患者のリアルワールドデータベースであるJ-CKD-DB-Exは、現在も拡充しており、将来的にはさらに多くのビッグデータを活用して、国内におけるCKDの診断、治療、予後に関する実態を解明し、新たなエビデンスを創出することを目指している。これにより、CKD患者の生命予後および腎予後の改善を目指し、国民の健康維持に貢献することが期待される」と、研究グループでは述べている。
J-CKD-Database:日本の慢性腎臓病患者に関する臨床効果情報の包括的データベースの構築に関する研究
Factors affecting the sodium-glucose cotransporter 2 inhibitors-related initial decline in glomerular filtration rate and its possible effect on kidney outcome in chronic kidney disease with type 2 diabetes: The Japan Chronic Kidney Disease Database (Diabetes, Obesity and Metabolism 2024年5月8日)
Kidney Outcomes Associated With SGLT2 Inhibitors Versus Other Glucose-Lowering Drugs in Real-world Clinical Practice: The Japan Chronic Kidney Disease Database (Diabetes Care 2021年10月18日)
CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation (日本腎臓学会)