GIP/GLP-1受容体作動薬「ゼップバウンド」 肥満症治療薬として発売 肥満症は複合的な要因からなる慢性疾患

2025.03.21
 日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「ゼップバウンド皮下注2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス」(一般名:チルゼパチド)について、3月19日に「肥満症」を効能又は効果として薬価基準に収載されたのを受け、4月11日に発売すると発表した。

肥満症は複合的な要因からなる慢性疾患

 「ゼップバウンド」は、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)とグルカゴン様ペプチド-1(GLP1)の2つの受容体に作用する持続性GIP/GLP-1受容体作動薬。天然GIPペプチド配列をベースとした単一分子だが、GLP-1受容体にも結合するように改変されており、選択的に長時間作用するため週1回投与が可能。

 同剤は、1回使い切りのオートインジェクター型注入器「アテオス」により、週1回皮下注射で投与される。あらかじめ取り付けられている注射針が、注入ボタンを押すことで自動的に皮下にささり、1回量が充填されている薬液が注入される。患者が注射針を扱ったり、用量を設定したりする必要はない。

 また、同剤の用量は2.5mg、5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mgの6規格のラインナップで、状態に応じての使い分けが可能になっている。

 日本での「ゼップバウンド」の提供については、マンジャロと同様に、田辺三菱製薬が流通・販売を行い、日本イーライリリーと田辺三菱製薬が共同で情報提供活動を行う。

ゼップバウンド
ゼップバウンド 製品概要
販売名 ゼップバウンド皮下注2.5mgアテオス
ゼップバウンド皮下注5mgアテオス
ゼップバウンド皮下注7.5mgアテオス
ゼップバウンド皮下注10mgアテオス
ゼップバウンド皮下注12.5mgアテオス
ゼップバウンド皮下注15mgアテオス
一般名 チルゼパチド
効能又は効果 肥満症
ただし、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。
  •  BMIが27kg/m²以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する
  •  BMIが35kg/m²以上
用法及び用量 通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgから開始し、4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgを皮下注射する。
なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、週1回5mgまで減量、又は4週間以上の間隔で2.5mgずつ週1回15mgまで増量できる。
薬価 ゼップバウンド皮下注2.5mgアテオス0.5mL 1キット 3,067円
ゼップバウンド皮下注5mgアテオス0.5mL 1キット 5,797円
ゼップバウンド皮下注7.5mgアテオス0.5mL 1キット 7,721円
ゼップバウンド皮下注10mgアテオス0.5mL 1キット 8,999円
ゼップバウンド皮下注12.5mgアテオス0.5mL 1キット 10,180円
ゼップバウンド皮下注15mgアテオス0.5mL 1キット 11,242円
製造販売承認取得日 2024年12月27日
薬価基準収載日 2025年3月19日

 なお、製造販売承認を取得した適応症以外の目的で使用された場合の、「ゼップバウンド」の安全性および有効性は確認されておらず、「ゼップバウンド」は国内の添付文書に則った適切な使用が求められる医薬品であり、国内で承認された使用法以外で使用された場合には、思わぬ健康被害が発現するおそれがあるとしている。

 日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、「ゼップバウンド」を必要とする患者が安全かつ適切に使えるよう、添付文書および最適使用推進ガイドラインに則った情報提供活動に注力するとしている。

ゼップバウンド 最適使用推進ガイドラインについて

 「ゼップバウンド」は、最適使用推進ガイドラインの対象薬剤であり、同剤が適応となる患者の選択、投与継続/中止および再投与の判断は適切に行われることが求められている。治療対象となる肥満症以外での痩身・ダイエットなどを目的に同剤を投与してはならず、同剤の投与により重篤な副作用が発現した際にも適切な対応をすることが必要であるため、下記の内容を満たす施設で使用するべきとされている。

※厚生労働省「最適使用推進ガイドライン チルゼパチド」より一部抜粋(p.20)

施設要件 (下記に該当する医療機関であること)
  •  内科、循環器内科、内分泌内科、代謝内科または糖尿病内科を標榜している保険医療機関であること。
  •  高血圧、脂質異常症または2型糖尿病並びに肥満症の病態、経過と予後、診断、治療(参考:高血圧治療ガイドライン、動脈硬化性疾患予防ガイドラインまたは糖尿病診療ガイドラインおよび肥満症診療ガイドライン、肥満症の総合的治療ガイド)を熟知し、同剤についての十分な知識を有している医師(以下の<医師要件>参照)の指導のもとで同剤の処方が可能な医療機関であること。
  •  施設内に、以下の<医師要件>に掲げる各学会専門医いずれかを有する常勤医師が1人以上所属しており、同剤による治療に携われる体制が整っていること。また、以下の<医師要件>に掲げる各学会専門医のうち、自施設に所属していない専門医がいる場合は、当該専門医が所属する施設と適切に連携がとれる体制を有していること。
  •  以下の<医師要件>に掲げる各学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であること。
  •  常勤の管理栄養士による適切な栄養指導を行うことができる施設であること。実施した栄養指導については診療録等に記録をとること。
医師要件 (右記の基準を満たす医師が、上記の<医師要件>に該当する)
  •  医師免許取得後2年の初期研修を修了した後に、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病並びに肥満症の診療に5年以上の臨床経験を有していること。または、医師免許取得後、満7年以上の臨床経験を有し、そのうち5年以上は高血圧、脂質異常または2型糖尿病並びに肥満症の臨床研修を行っていること。
  •  高血圧、脂質異常症または2型糖尿病を有する肥満症の診療に関連する以下のいずれかの学会の専門医を有していること。
      ・ 日本循環器学会
      ・ 日本糖尿病学会
      ・ 日本内分泌学会
      なお、日本肥満学会の専門医を有していることが望ましい。
*日本内分泌学会または日本糖尿病学会の専門医には、両学会が認定する専門医(内分泌代謝・糖尿病内科専門医)も含まれる。

 「肥満のある人は、日本に約2,800万人いると推定されています。そして肥満にともなう健康障害を合併している方が、肥満症に該当します。肥満症は、QOLの低下だけでなく、すでに患っている慢性疾患の悪化や、さらに他の健康障害を引き起こすリスクがあります。それにもかかわらず、肥満症は他の慢性疾患と同じレベルの必要な治療がなされてきませんでした。ゼップバウンドを通じて、肥満症のある方がエビデンスにもとづく適切な治療を享受し、より充実した生活をおくることができるよう貢献してまいります」と、日本イーライリリーでは述べている。

 「肥満や肥満症は、遺伝的、身体的、心理的、社会的など複合的な要因が合わさっており、生活習慣だけが原因ではないにもかかわらず、肥満や肥満症に対する偏見や差別(オベシティ・スティグマ)が社会課題として存在しています。このたび、ゼップバウンドが薬価収載され、肥満症の新しい治療選択肢として医療現場へお届けしていくにあたって、情報提供活動を通じた同剤の適正使用推進に努めることはもちろん、慢性疾患である肥満症が正しく理解され、肥満症のある人がよりよい生活を送ることができるよう、両社で活動してまいります」と、田辺三菱製薬では述べている。

ゼップバウンド皮下注2.5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注7.5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注10mgアテオス/ゼップバウンド皮下注12.5mgアテオス/ゼップバウンド皮下注15mgアテオス 添付文書 医薬品ガイド (医薬品医療機器総合機構)

ゼップバウンド (チルゼパチド) 医療関係者向け (日本イーライリリー)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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