「心・腎・代謝(CKM)症候群」を提案 2型糖尿病・肥満・腎臓病・心血管疾患が相互に関連 AHA

2023.10.24
 米国心臓学会(AHA)は、心血管・腎臓・代謝(2型糖尿病、肥満など)は相互に関連しており、これら異常が重なると、罹患率と死亡率に重大な影響がもたらされることから、これらの疾患をまとめて「心・腎・代謝(CKM)症候群:cardiovascular-kidney-metabolic syndrome」と呼ぶことを提唱した勧告を発表した。

 2型糖尿病・高血圧・高トリグリセリド・腎機能の低下などがあり、腎臓病や心臓病が悪化するリスクが高いステージの患者に対し、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の使用を検討することを推奨している。

2型糖尿病・肥満・慢性腎臓病・心血管疾患が相互に関連

 米国心臓学会(AHA)は、心血管疾患(CVD)・腎臓病・2型糖尿病・肥満の強い関連性を特定し、CVDリスク、予防・管理の再定義を提案する会長勧告を発表した。詳細は「Circulation」に掲載された。

 勧告では、こうした疾患を「心・腎・代謝(CKM)症候群」(cardiovascular-kidney-metabolic syndrome)と呼ぶことを提案している。

 CKM症候群は、「ステージ0(危険因子がなく、完全に予防が焦点)」から「ステージ4」(心血管疾患を伴う、腎不全が含まれる場合もある)まで5段階で管理される。

 同学会の示した2023年の統計情報によると、米国成人の3人に1人が、心血管疾患、代謝障害、および/または腎臓疾患の一因となる3つ以上の危険因子をもっている。

 「2型糖尿病や肥満などの代謝因子の改善、腎臓病の悪化の軽減、心臓病の予防など、CKM症候群に複数の効果をもたらす新しい治療法による最善の治療法を理解する必要がある」と、ジョンズ ホプキンス大学心臓病学部の肥満・心臓代謝研究のディレクターを務めるChiadi Ndumele氏は言う。

 「勧告では、CKM症候群の初期段階にある患者を特定することにとくに焦点を当てている。腎臓や代謝疾患のスクリーニングは、より効果的に心臓病を予防し、既存の心臓病を最善に管理するために保護療法を早期に開始するのに役立つだろう」。

 「現在、腎臓病と心臓病の悪化を防ぐいくつかの治療法がある。勧告は、医療専門家に対して、これらの治療法をいつどのように使用するかについての指針を提供し、医療者と患者にCKM症候群を予防および管理する最良の方法について情報を提供するものだ」としている。

 CKMは、心臓・脳・腎臓・肝臓など、体のほぼすべての主要な臓器に影響をもたらすが、もっとも大きな影響は心血管系に起こり、血管と心筋の機能、動脈内の脂肪の蓄積、心臓の電気インパルスなどに影響をもたらすとしている。

 2型糖尿病と肥満は代表的な代謝疾患であり、心血管疾患の危険因子でもある。さらに、2型糖尿病および慢性腎臓病患者のもっとも一般的な死因は心血管疾患だ。

 CKM症候群の患者では管理すべき症状が複数あるため、とくに治療障壁のある患者で、治療が断片化することが懸念事項になっているという。

 勧告では、10年後~30年後の心臓発作、脳卒中、心不全の可能性を予測するアルゴリズムを組みこんだ新しいツールの使用や、複数の専門分野のあいだで連携した治療アプローチも推奨している。

 「勧告では、さまざまな専門分野の専門家が、患者全体を治療するために1つのチームを作り、より効果的に協力しあう方法を示唆している。さらに、勧告では、CKM症候群の最適なケアの重要な側面として、食事療法や運動療法など、健康を決定する、または推進する因子として機能する社会的要因を体系的にスクリーニングし、それに対処することの重要性を強調している」としている。

心・腎・代謝(CKM)症候群の検査・ステージ・治療
SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の使用を推奨

 CKM症候群のスクリーニングは、心血管・腎臓・代謝の健康状態の変化を早期に検出し、医療に対する社会的・構造的障壁を特定し、次のステージに進行するのを抑制することを目的としている。

 CKM症候群は進行性であり、人生の早い段階で始まることが示唆されている。したがって小児や若年者に対しても、体重・血圧・精神・行動の健康状態の年次評価を実施することを推奨している米国小児科学会の勧告とも一致する。

 肥満は2型糖尿病、高血圧、高トリグリセリドと関連があるので、不健康な体重増加を防ぐことはCKM症候群の予防にとっても重要だ。勧告では、すべてのステージで、腹囲径とBMIを毎年検査することが提案されている。

 健康的な生活スタイル行動もすべてのステージで奨励される。生活スタイル改善により体重減少などを達成した患者で、血糖コントロール、コレステロールおよび血圧レベル、体重、腎機能、心機能不全が改善し、CKM症候群のステージを下げられる可能性がある。

ステージ0 CKM症候群の危険因子がない
 この段階の目標は、米国心臓学会のLife's Essential 8の推奨事項にもとづき、理想的な健康状態を達成・維持することでCKM症候群を予防すること。推奨事項には、▼健康的な食事、▼運動・身体活動、▼禁煙、▼最適な体重・血圧値・血糖値・コレステロール値の維持、▼睡眠習慣などが含まれる。この段階の成人では、3~5年ごとのスクリーニングにより、血圧・トリグリセリド・HDLコレステロール・血糖を評価することが望ましい。
ステージ1 過剰な体脂肪、および/または腹部肥満、および/または耐糖能障害・前糖尿病
 健康的な生活スタイルの変更(健康的な食事、身体活動の習慣化など)をサポートし、体重の5%以上の減少を目指すことを提案している。必要に応じて耐糖能異常の治療も行い、血圧・トリグリセリド、コレステロール・血糖値を評価するために、2〜3年ごとにスクリーニングを実施することを推奨している。
ステージ2 代謝・腎臓病の危険因子がある
 2型糖尿病・高血圧・高トリグリセリド・腎機能の低下があり、腎臓病や心臓病が悪化するリスクが高い。このステージでの治療目標は、危険因子に対処して心血管疾患や腎不全への進行を防ぐこと。治療には、血圧・血糖値・コレステロールを管理するための薬物療法が含まれる場合がある。
 慢性腎臓病患者および一部の2型糖尿病患者には、腎機能を保護し、心不全のリスクを軽減するためにSGLT2阻害薬の使用が推奨される。SGLT2阻害薬は、2型糖尿病の成人の血糖値を下げるために食事と運動と併用することがFDAによって承認されている処方薬。
 GLP-1受容体作動薬も、高血糖を減らし、体重減少を促進し、CVDリスクを軽減するために、2型糖尿病患者での使用を検討することを推奨。
 腎機能の悪化を防ぐため、他の治療法も推奨される。CKM症候群のスクリーニングの提案は、血圧・トリグリセリド・コレステロール・血糖・腎機能の年次評価を含むAHA/ACCガイドラインとも一致している。
 また、腎不全のリスクが高い患者には、腎機能評価にもとづきより頻繁に腎臓のスクリーニングを実施することを推奨している。
ステージ3 代謝異常や腎疾患の因子のある患者、または心血管疾患のリスクが高いと予測される初期心血管疾患の患者
 症候性心血管疾患や腎不全に進行するリスクが高い患者を特定し、予防の取り組みを強化することが目標。薬の増量または変更、さらに生活スタイルの変更に重点を置くことが含まれる場合がある。
 治療方針の決定が明確でない場合、一部の成人に対して冠動脈狭窄を評価するために冠動脈石灰化(CAC)の測定も推奨。CAC測定は、コレステロールを低下するためのスタチン療法の決定指針として使用される。無症候性心不全を示す検査結果は、心不全の症状を防ぐための強化療法につながる。
ステージ4 過剰な体脂肪、代謝危険因子、または腎臓病のある患者の症候性心血管疾患
 このステージのCKM症候群は、(4a) 腎不全のない患者、(4b) 腎不全のある患者の、2つのサブカテゴリーに分類される。このステージの患者は、すでに心臓発作や脳卒中を起こしているか、すでに心不全を発症していたり、末梢動脈疾患や心房細動などの追加の心血管疾患を発症している可能性がある。治療の目標は、CKM症候群の状態を考慮した心血管疾患の個別治療。

CKM症候群リスクの予測

 リスクを評価し、CKM症候群を管理するうえで重要なステップとなるのは、リスク予測アルゴリズムを更新し、医療専門家がCKMの要素(心血管疾患、慢性腎臓病、代謝障害)を含む方法で、心血管疾患を予測できるようにすること。

 2013年に確立されたアテローム性動脈硬化性心血管疾患の現在のリスク計算ツールであるプールコホート方程式で、40~75歳の患者の今後10年間の心臓発作または脳卒中のリスクを推定できる。

 この勧告では、より包括的なリスク推定のために、腎機能、2型糖尿病の管理、健康の社会的決定要因の尺度を含めるよう、リスク計算ツールを更新することを提案している。腎機能の評価には、腎臓が血液から老廃物をどれだけ濾過できているかを示す尺度と、腎臓がタンパク質をどれだけうまく再吸収するかを示す尺度となるアルブミン尿が含まれる。

Heart disease risk, prevention and management redefined (米国心臓学会 2023年10月9日)
Cardiovascular-Kidney-Metabolic Health: A Presidential Advisory From the American Heart Association (Circulation 2023年10月9日)
Interconnection between cardiovascular, renal and metabolic disorders: A narrative review with a focus on Japan (Diabetes, Obesity and Metabolism 2022年8月5日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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