心電図のみで糖尿病予備群を検出するAIモデルを開発 東京科学大学ら

糖尿病は一度発症すると治癒が難しいため、発症予防が重要となる。糖尿病予備群の発見には現状、血液検査が不可欠となるが、健診受診率や費用面の問題から、年1回の血液検査を実施することは必ずしも容易ではなく、十分なスクリーニングが行われていないのが現状である。
糖尿病は心不全の独立した危険因子であるが、疫学調査によって、糖尿病予備群の段階からすでに心不全発症リスクが上昇していることが示されている。つまり、糖尿病予備群の段階から心臓に微細な影響が生じていると考えられる。
しかしながら、一般的に行われている心電図や心エコー検査では、これまでこの心臓の変化を検出することはできなかった。そこで研究グループは、健診で得られた心電図データの解析によって糖尿病予備群を発見するAIモデルの構築を実施した。
本研究では、2022年に単一施設で健診を受診した18歳以上の人のうち、心電図、空腹時血糖値(FPG)、HbA1c、および糖尿病治療の有無に関する情報を有する16,766件の健診データを解析対象とした。心電図から算出された特徴量をデータとして、FPG・HbA1c・糖尿病治療歴に基づき2群にラベル付けを行い、分類モデルを作成した。さらに、2024年に異なるメーカーの心電計を使用して健診を受診した別施設の2,456件のデータを用いて、作成したモデルの外部検証も実施した。FPG 110mg/dL以上、HbA1c 6.0%以上、もしくは糖尿病治療中の者を「糖尿病予備群/糖尿病群」とし、それ以外を「正常血糖群」とした。
結果、構築された機械学習モデル「DiaCardia」は、12誘導心電図から得られる269項目の特徴量のみで糖尿病予備群/糖尿病を高精度(AUROC:0.851、感度85.7%、特異度70.0%)に検出することに成功した。別施設の心電図データによる外部検証でも、AUROC 0.785を示し、モデルの再現性と精度の高さが示された。
また、FPGやHbA1cの基準値を変化させた解析では、FPG 105mg/dL、HbA1c 6.0%以上を基準としたときに予測精度が高く、この段階からすでに心臓に変化が生じていることが示唆された。さらに、年齢・性別・BMI・血圧・喫煙・飲酒など、心電図データへの影響を及ぼすとされる因子を傾向スコアマッチングで補正しても、AUROCは0.789を示した。この結果から、DiaCardiaはこれらの因子の影響を受けず、糖尿病予備群に特有の心電図変化を捉えていることが確認された。
本研究で用いられたAI技術(DiaCardia)は機械学習であり、AIがどの特徴量を参考に判定しているのか解析することが可能で、その結果、aVL誘導のR波の高さや心拍数の変動が大きく影響していることが明らかとなった。これらはそれぞれ、インスリン抵抗性に伴う左心室心筋量の増加や自律神経障害との関連が知られており、DiaCardiaの予測が生理学的にも合理的であることが裏付けられた。一方で、他にも多くの特徴量が関与していたことから、DiaCardiaによって新たに発見された糖尿病予備群/糖尿病特有の心電図変化が、心臓における病態解明につながる可能性が示された。
さらに、12誘導のうちI誘導から得られる心電図特徴量のみで解析した場合でも、12誘導心電図の場合と同等の性能で糖尿病予備群を検出した。このI誘導は、腕時計型ウェアラブル端末で取得可能な心電図に相当する。
研究グループは、「今回得られた技術を発展させることで、いつでも・どこでも・誰でも糖尿病予備群を手軽に発見できるようになり、糖尿病の発症予防に大きく貢献することが期待される」と述べている。
本研究は、東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 分子内分泌代謝学分野(糖尿病・内分泌・代謝内科)の講師 小宮力氏、大学院生 兼田稜氏、教授 山田哲也氏、同 AIシステム医科学分野の研究員 古賀大介氏(現・佐賀大学 助教)、講師 大野聡氏、教授 清水秀幸氏らと、東北大学 大学院医学系研究科 糖尿病代謝・内分泌内科学分野の教授 片桐秀樹氏との共同研究として実施された。研究成果は、国際学術誌「Cardiovascular Diabetology」に2025年11月11日付で掲載された。





