やせ型糖尿病モデル動物の開発に成功 日本人に多いやせ型糖尿病の発症機構の解明や治療法開発に貢献 理研と京都大

2024.08.14
 理化学研究所と京都大学などは、やせ型糖尿病モデル動物の開発に成功したと発表した。

 糖質や脂質の代謝がヒトに類似しているゴールデンハムスターを用いて、糖尿病の原因遺伝子のひとつであるIRS2遺伝子を働かないようにすることで、やせ型糖尿病モデルハムスターの開発に成功した。

 日本の糖尿病患者数は予備群含めて2,000万人以上と推計されており、その多くは東アジア特有のやせ型糖尿病。開発したハムスターは、日本人の糖尿病の発症機構の解明や治療法の開発に用いることができる貴重な実験モデルとしている。

日本を含む東アジアに多いやせ型糖尿病の研究に適切なモデル動物を開発

 理化学研究所と京都大学などは、やせ型糖尿病モデル動物の開発に成功したと発表した。

 研究は、理化学研究所バイオリソース研究センター遺伝工学基盤技術室の廣瀬美智子テクニカルスタッフII、小倉淳郎室長、マウス表現型解析技術室の田村勝室長、京都大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学の村上隆亮助教、稲垣暢也名誉教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載された。

 研究グループは今回、糖質や脂質の代謝がヒトに類似しているといわれているゴールデンハムスターを用いて、卵管内ゲノム編集法(i-GONAD法)により、糖尿病の原因遺伝子のひとつであるIRS2(インスリン受容体基質タンパク質2)遺伝子を働かないようにすることで、やせ型糖尿病モデルハムスターの開発に成功した。

 この手法は、受精卵を体外に取り出すことなく遺伝子の編集を行う、胚操作技術がなくてもゲノム編集を行えるシンプルな手法。

卵管内ゲノム編集法によるやせ型糖尿病モデルハムスターの作出
出典:理化学研究所、2024年

IRS2 KOハムスターのβ細胞機能不全を確認 信頼性の高い実験を実施可能に

 2型糖尿病は、食生活などの環境因子と体質(遺伝)の組み合わせで起こるもっとも一般的な糖尿病だが、西欧では肥満型の2型糖尿病が多い一方で、日本を含む東アジアではやせ型の2型糖尿病が多数を占める。

 一方、IRS2はインスリンの細胞内伝達調節因子。研究グループは今回、ゴールデンハムスターを用いてIRS2ノックアウト(KO)ハムスターを作出し、糖尿病モデル動物の開発を試みた。

 その結果、1匹のKOハムスターの作出に成功し、そのKO個体を用いた交配によりIRS2 KO系統を樹立した。ホモ型KOハムスターは、ヘテロ型KOおよび野生型ハムスターに比べ、生後から継続的に低体重を示した。また、ホモ型KOハムスターは、HbA1cが野生型に比べて有意に高くなった。

 さらに、体内のグルコース(ブドウ糖)代謝を見るために3つの体内グルコース代謝試験を行った。まずグルコース負荷試験を行うと、ホモ型KOハムスターはヘテロ型KOや野生型ハムスターに比べ血中のグルコース値の上昇が有意に高くなり、ブドウ糖を投与してから120分後まで高値で推移した。

 一方、インスリン耐性試験では、ホモ型KOハムスターはインスリン投与に対して正常に反応した。グルコース投与によるインスリン分泌試験では、ホモ型KOハムスターはインスリンレベルが上昇しないことが分かった。

 これらの結果から、ホモ型KOハムスターではインスリンを分泌する膵臓β細胞の機能が不十分であることが示唆された。

開発したIRS2 KOハムスターの体内のブドウ糖代謝試験の結果

出典:理化学研究所、2024年

 研究グループは次に、組織免疫染色でインスリンを分泌する膵臓β細胞を調べたところ、ホモ型KOハムスターではインスリン陽性細胞の相対的面積が有意に減少しており、β細胞を含む膵島もヘテロ型KOハムスターに比べ小さくなっていた。

 最後に膵臓から膵島を分離し、インスリン分泌試験を行った。ホモ型KOハムスターの膵島あたりのインスリン分泌量は有意に低く、インスリン含有量も低いことが分かった。また、ホモ型KOハムスターでは、膵島細胞あたりのインスリン分泌量とインスリン含有量も低下していた。

 これらの結果は、ホモ型KOハムスターのβ細胞機能不全を示すものであり、体内グルコース代謝試験の結果を裏付けているとしている。

IRS2 KOハムスターの膵臓のインスリン分泌細胞の観察
ホモ型KOハムスターは、ヘテロ型KOハムスターに比べ、インスリン陽性細胞が減少

出典:理化学研究所、2024年

 「2型糖尿病の発症機構の解明と治療方法の開発には、糖尿病モデル動物の使用は欠かせない。これまで糖尿病モデル動物の多くは、肥満型の糖尿病モデル動物であったため、日本を含む東アジアに多いやせ型糖尿病の研究に適切なモデル動物はいなかった」と、研究グループでは述べている。

 「今回作出されたやせ型糖尿病モデルハムスターは、ひとつの遺伝子機能が失われているだけなので、野生型ハムスターを実験対照(コントロール)として用いることで、信頼性の高い実験が実施可能だ」としている。

 なお、このモデルの欠点として、胎児のときから全身で遺伝子機能が欠損しているために、出生前後に死んでしまう個体が多いということを挙げている。今後、遺伝子改変の工夫により発症を遅らせたり、遺伝子機能の欠損を特定の臓器に限定したりすることで、さらに研究開発に適した糖尿病モデルに改良されることが期待されるとしている。

理化学研究所 バイオリソース研究センター 遺伝工学基盤技術室 (RIKEN BRC)
京都大学大学院 医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学
Disruption of insulin receptor substrate 2 (IRS2) causes non-obese type 2 diabetes with β-cell dysfunction in the golden (Syrian) hamster (Scientific Reports 2024年8月12日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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