糖尿病薬のSGLT2阻害薬のうち腎保護作用がもっとも強いのはどれか? 日本人のリアルワールドデータ分析

2022.08.16
 東京大学は、日本人のリアルワールドデータ分析を行い、糖尿病に対して処方されたSGLT2阻害薬間で、腎機能の経時的な変化量に有意差がないことを明らかにした。

 SGLT2阻害薬の腎保護作用は、薬剤間で共通しているクラスエフェクトであることが示唆された。

 SGLT2阻害薬は、近年の研究から腎保護効果を有することが示されているが、これまで薬剤間で腎保護作用を比較した研究は少なく、効果の差の有無は明らかではなかった。

SGLT2阻害薬は腎臓病の治療薬としても注目を集めている

 SGLT2阻害薬は、これまでの大規模臨床試験で、慢性腎臓病(CKD)の症例に対する腎保護効果が示されたことから、腎臓病の治療薬としても注目を集めている。

 国内では2014年以降、6種類のSGLT2阻害薬が保険適用され、糖尿病の治療薬として処方されている。SGLT2阻害薬の薬剤間で効果に差が生じるのか、それとも共通の効果(クラスエフェクト)を示すのかについては、臨床でのエビデンスが少ないため、こうしたエビデンスの蓄積が望まれている。

 そこで東京大学の研究グループは、国内の大規模なレセプトデータベースを用いて、新規にSGLT2阻害薬が処方された約1万2,000件の糖尿病症例を解析し、SGLT2阻害薬間で、腎機能の経時的な変化量に有意差がないことを示した。

 研究グループは、糖尿病症例での循環器疾患発症率がSGLT2阻害薬の薬剤間で同等であることも報告しており、これらの結果も合わせると、SGLT2阻害薬の腎保護作用あるいは心保護作用がクラスエフェクトであることが示唆される。

 研究成果は、今後の糖尿病、慢性腎臓病、循環器疾患の治療でのSGLT2阻害薬の使用を考えるうえで、重要なリアルワールドエビデンスになることが期待されるとしている。

 研究は、東京大学大学院医学系研究科循環器内科学/東京大学医学部附属病院循環器内科の小室一成教授、東京大学大学院医学系研究科先進循環器病学講座の金子英弘特任講師、東京大学大学院医学系研究科腎臓内科学/東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科の南学正臣教授、康永秀生教授、岡田啓特任助教、鈴木裕太研究員および、佐賀大学医学部循環器内科の野出孝一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際腎臓学会(ISN)の学会誌「Kidney International」に掲載された。

SGLT2 阻害薬の薬剤間でのeGFRの変化量
SGLT2阻害薬の腎保護作用は、薬剤間で共通しているクラスエフェクトであることが示唆された

出典:東京大学医学部附属病院、2022年

国内最大規模のレセプトデータベースを使用

 SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬として開発されたが、大規模臨床試験で(糖尿病の有無に関わらず)腎保護作用を有していることが示され、2021年以降にSGLT2阻害薬の適応は慢性腎臓病に対しても拡大されている。

 臨床現場でのニーズが高まったことから、SGLT2阻害薬の処方数は増加している。国内では現在6種類のSGLT2阻害薬が糖尿病への適応を有しているが、SGLT2阻害薬の薬剤間で腎保護作用を比較した研究は少なく、SGLT2阻害薬の腎保護作用が、クラスエフェクトと考えて良いのかについては議論が分かれるところだった。

 そこで研究グループは、国内最大規模のレセプトデータベースである「JMDC Claims Database」を用いて、糖尿病に対して新規にSGLT2阻害薬が処方された症例を対象に、個々のSGLT2阻害薬の薬剤間で腎機能の経時的な変化量を比較した。

 2005年1月~2021年4月に登録され、登録後に4ヵ月以上が経過してから、糖尿病に対してSGLT2阻害薬が処方され、透析治療歴のない1万2,100症例(年齢中央値53歳、84%が男性、HbA1c中央値7.5%)を解析対象とした。

 6種類のSGLT2阻害薬について、それぞれ、ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)は2,573症例、フォシーガ(同:ダパグリフロジン)は2,214症例、カナグル(同:カナグリフロジン)は2,100症例、それ以外のSGLT2阻害薬は5,213症例[スーグラ(同:イプラグリフロジン)2,636症例、デベルザ(同:トホグリフロジン)1,467症例、ルセフィ(同:ルセオグリフロジン)1,110症例)]に対して処方されていた。

SGLT2阻害薬の腎保護作用がクラスエフェクトである可能性

 平均観察期間773±477日の間に、年齢や性別、併存疾患やその他の糖尿病治療薬で補正した解析で、エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、その他のSGLT2阻害薬の間で、腎機能の指標である推算糸球体濾過量(eGFR)の年次変化量を比較した。

 その結果、薬剤間で有意な差は認められなかった。この結果は、SGLT2阻害薬の腎保護作用が薬剤間で共通しているクラスエフェクトであることを示唆している。

 「本研究は、糖尿病だけでなく慢性腎臓病や循環器疾患に対する主要な薬剤としてSGLT2阻害薬への期待が高まるなかで、SGLT2阻害薬の各薬剤間での腎保護作用が同等である可能性を、大規模なリアルワールドデータで示したものです」と、研究グループは述べている。

 「これまでエビデンスの乏しかった臨床の現場、とりわけ腎臓領域に貴重なエビデンスを提供することができたと考えています。本研究が、糖尿病や腎臓病などの疾患をもつ患者さんのQOL改善、そして健康寿命の延伸に貢献していくものと期待されます」としている。

 なお、「JMDC Claims Database」は、JMDCが提供する国内で最大規模の健診・レセプトデータベースで、主に中規模以上の企業に勤務するビジネスマンとその家族の健康診断や保険レセプトの情報が統合されている。

 レセプトデータ、健診データ、電子カルテデータ、患者レジストリーデータなど実際の臨床現場(リアルワールド)から得られる医療データであるリアルワールドデータ(RWD)の情報量は膨大であり、その解析は医療ビッグデータ解析につながる。

東京大学医学部附属病院 循環器内科
Kidney outcomes in patients with diabetes mellitus did not differ between individual sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors (Kidney International 2022年8月9日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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