【SGLT2阻害薬に肝疾患の改善効果】糖尿病を含むMASH患者の脂肪肝炎と線維化を改善 肝疾患治療で革新的な役割を果たす可能性

SGLT2阻害薬が脂肪肝炎と線維化を改善
2型糖尿病を含むMASH患者が対象のランダム化比較試験
研究は、南方医科大学内分泌代謝科および腎臓病臨床研究センターなどのHuijie Zhang教授らによるもの。研究成果は、「British Medical Journal」に6月4日に掲載された。
「MASHは成人の5%以上、糖尿病あるいは肥満症患者の30%以上に影響を及ぼし、最大25%の個人が肝硬変に進行する可能性が報告されている。多様な集団を対象としたさらなる研究が必要だが、今回得られた知見は、既存の薬剤であるSGLT2阻害薬が、肝疾患の治療で革新的な役割を果たす可能性を示唆している」と、研究者は述べている。
過去の研究で、SGLT2阻害薬が肝臓の脂肪含有量、肝酵素、および肝臓硬度を改善したことが報告されているが、MASH患者を対象とした試験は実施されていない。
そこで研究グループは、2018年11月~2023年3月に中国の6件の医療センターで肝生検後にMASHと診断された成人154人(平均年齢35歳、男性85%)を対象に多施設、二重盲検、ランダム化、プラセボ対照試験を実施した。
対象者のほぼ半数(45%)は2型糖尿病があり、ほぼ全員が肝線維症を発症していた(ステージ1 33%、ステージ2 45%、ステージ3 19%)。
対象者は最初のスクリーニング生検の後、48週間にわたりダパグリフロジン10mgを1日1回、あるいは対応するプラセボが投与されるように無作為に割り当てられ、年に2回の患者教育セッションに参加した。
体重、血圧、血糖値、肝酵素、身体活動、食事、インスリン、脂質などのさまざまな要因も登録時および試験期間中に評価された。
主要評価項目は、48週時点での肝線維化の悪化(線維化ステージの進行)をともなわないMASHの改善[非アルコール性脂肪性肝疾患活動性スコア(NAS)の2ポイント以上の低下、あるいはNASが3ポイント以下と定義]だった。副次評価項目は、線維化の悪化をともなわないMASHの消失、およびMASHの悪化をともなわない線維化の改善とした。解析には、治療意図データセットが使用された。
その結果、試験終了時の生検後、ダパグリフロジン群の患者の53%(78人中41人)は、線維化の悪化なし(線維化ステージの進行なし)で、MASHの改善が示された。一方、プラセボ群では改善は30%(76人中23人)にとどまった[リスク比 1.73、95%信頼区間(CI) 1.16~2.58、P=0.006]。NASの平均差は-1.39だった[同 -1.99~-0.79、P<0.001]。
線維化の悪化をともなわないMASHの解消は、ダパグリフロジン群では23%(78人中18人)、プラセボ群では8%(76人中6人)だった[リスク比 2.91、同 1.22~6.97、P=0.01]。MASHの悪化をともなわない線維化の改善は、ダパグリフロジン群で45%(78人中35人)だったのに対し、プラセボ群では20%(76人中15人)だった[リスク比 2.25、同 1.35~3.75、P=0.001]。
有害事象により治療を中止した患者の割合は、ダパグリフロジン群で1%(78人中1人)、プラセボ群で3%(76人中2人)だった。
「2型糖尿病を含むMASH患者を対象とした試験で、SGLT2阻害薬はプラセボと比較して、脂肪肝炎と線維化の両方を改善することで、MASHの重要な側面に影響を及ぼす可能性が示唆された。ダパグリフロジンを48週間の投与により、MASH患者で、線維化の悪化をともなわないMASHの改善、線維化の悪化をともなわないMASHの消失、およびMASHの悪化をともなわない線維化の改善がもたらされることが示された」と、研究者は結論している。
今回の試験の限界として、中国人集団を対象に実施したため、より広範に一般化できる可能性が限られており、高齢の患者や女性が十分に代表されていないことを指摘している。一方で、さらなる解析によっても結果は一貫しており、信頼性は示唆されているとしている。
さらに、これらの効果をさらに検証するために、大規模かつ長期的な試験が必要になると付け加えている。
論文の論説では、MASHの薬物療法の分野で、今後数年間はとくに興味深い年になるだろうと予想されており、「より多くの薬剤が利用可能になるにつれて、治療決定は、個々の患者のプロファイルに合わせて、より細かく調整できるようになるだろう。理想的には、そうした治療が心血管系に対しても有益であり、安全性が確立され、幅広く多様な患者が利用できるなることが期待される」と述べている。
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