糖尿病治療薬のメトホルミンが新型コロナやインフルの感染予防法に? 唾液の質がウイルス感染に関与 国立長寿医療研究センターなど
糖尿病治療薬であるメトホルミンによる唾液腺タンパクの発現制御が、新たなウイルス感染や感染拡大の予防法になりえるという研究を、国立長寿医療研究センターなどが発表した。
メトホルミンにより、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス感染に関与する、唾液腺におけるACE2・TMPRSS2の発現や、唾液可溶型ACE2・TMPRSS2タンパクレベルが変化するとしている。

メトホルミンにより唾液腺の新型コロナ感染に関与する酵素などの発現が変化 新しい感染対策の開発に期待
糖尿病治療薬であるメトホルミンによる唾液腺タンパクの発現制御が、新たなウイルス感染や感染拡大の予防法になりえるという研究を、国立長寿医療研究センターなどが発表した。
新型コロナなどのウイルス感染症による死亡や重症化のリスクは、年齢、肥満、糖尿病などの代謝異常と関連することが知られているが、そのメカニズムは十分に解明されていない。
一方、メトホルミンは安価で、広く入手可能な薬であり、使用実績が長く安全性が確認されている。メトホルミンの多面的作用は注目されている。
ウイルスはさまざまな経路から体内に侵入するが、侵入経路のひとつが口腔だ。唾液は感染予防および伝播の両方で重要な役割を担っていると考えられている。
飛沫・接触を介した伝播は、唾液中のウイルスによるもので、唾液は唾液腺でつくられており、その有機成分としてさまざまな種類の抗菌・抗ウイルス成分が含まれている。
研究グループは今回、唾液を介した飛沫・接触感染に着目し、ウイルス感染およびその伝播には「唾液の質」が重要であり、加齢や代謝異常がその「質」に影響を与えると考えた。
ACE2とTMPRSS2は、新型コロナウイルスに関連するタンパク質であり、感染の決定因子となる。
ACE2は、血圧上昇作用をもつアンジオテンシンIIを分解し血圧を下げる酵素であり、新型コロナウイルスが細胞へ感染するときの、細胞表面受容体として機能している。唾液腺には、ウイルスと結合能のあるACE2が多く発現している。
またTMPRSS2は、細胞膜にあるタンパク質分解酵素(セリンプロテアーゼ)で、新型コロナウイルスのSタンパク質を切断することで細胞への侵入を促進する。
研究グループは今回、メトホルミンの投与により、唾液腺でのTMPRSS2の発現が顕著に抑制されることや、ACE2の切断酵素も抑制されることを、マウスを使った実験で明らかにした。
これらの発現変化にともない、唾液可溶型のACE2レベルが増加し、可溶型TMPRSS2のレベルは低下するという。
ACE2は、新型コロナウイルスのスパイクタンパクとの結合ドメインを有するfACE2と、もたないものがあることが知られている。マウスにメトホルミンを投与すると、唾液腺でfACE2の発現が増加した。
これらの結果から、唾液腺でのACE2とTMPRSS2のタンパク質発現パターンは、口腔に関連する細胞や組織のものと異なること、さらにはメトホルミンと加齢が、新型コロナウイルスの感染予防の標的となるとみられるACE2とTMPRSS2の唾液発現に影響を与えることが示唆された。


研究は、国立長寿医療研究センター 口腔疾患研究部の四釜洋介副部長らの研究グループが、徳島大学や東京科学大学と共同で行ったもの。研究成果は、国際生化学・分子生物学連合が刊行する「BioFactors」にオンライン掲載された。
「唾液の質がウイルス感染に関与し、メトホルミンなどの薬剤による制御法を明らかにすることで、新しい感染・拡大の予防法の開発に役立つ可能性がある」と、研究者は述べている。
国立長寿医療研究センター ジェロサイエンス研究センター
Involvement of metformin and aging in salivary expression of ACE2 and TMPRSS2 (BioFactors 2025年1月26日)