GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドが米国で肥満治療薬として承認 最大用量で21kg超の体重減少

2023.11.16
 イーライリリー・アンド・カンパニーは、GIP/GLP-1受容体作動薬「Zepbound」(一般名:チルゼパチド)について、米国食品医薬品局(FDA)が肥満治療薬として承認したと発表した。

 「Zepbound」は、GIP受容体とGLP-1受容体の両方を活性化させる肥満治療薬として、世界ではじめて承認された。

 なお、日本では現在、承認されているチルゼパチドの適応症は「2型糖尿病」であり、2型糖尿病の治療以外を目的としての使用は承認されていない。

チルゼパチドはGIPとGLP-1の2つのインクレチンに対する受容体を活性化させ体重を減少

 イーライリリー・アンド・カンパニーは、GIP/GLP-1受容体作動薬「Zepbound」(一般名:チルゼパチド)について、米国食品医薬品局(FDA)が肥満治療薬として承認したと発表した。

 「Zepbound」は、GIP受容体とGLP-1受容体の両方を活性化させる肥満治療薬として、世界ではじめて承認された。

 「Zepbound」は米国の承認では、BMI30以上の肥満、またはBMI27以上過体重の成人で、高血圧・脂質異常症・2型糖尿病・閉塞性睡眠時無呼吸症候群・心血管系疾患など、体重に関連した医学的問題を有する成人での体重減少および抑制を適応としている。

 「Zepbound」は、低カロリーの食事および運動量の増加と併用することが望まれ、チルゼパチド含有製剤やGLP-1受容体作動薬との併用はできない。また、膵炎の既往がある患者や重度の消化器系疾患(重度の胃不全麻痺など)を有する患者を対象とした試験は実施されていないとしている。

 この承認は、第3相臨床試験であるSURMOUNT-1およびSURMOUNT-2の結果にもとづいている。2,539人の肥満または糖尿病以外の体重に関連した医学的問題を有する過体重の成人(平均体重は104.8kg)を対象として実施されたSURMOUNT-1試験では、食事と運動に加えて「Zepbound」を投与した群では、72週の時点でプラセボ群と比較して大幅な体重減少がみられた。

 プラセボ群では3.2kg(7ポンド)の減量であったのに対し、Zepbound群では、最低用量(5mg)群で平均15.4kg(34ポンド)、最大用量(15mg)群では平均21.8kg(48ポンド)の減量がみられた。

 さらに、第1種過誤を補正していないデータによると、減量について、プラセボ群では体重の1.5%であったのに対し、Zepboundの最大用量を投与された群の3人に1人で、体重の25%に相当する26.3kg(58ポンド)を超える減量がみられた。

 また、治療として承認されてはいないものの、臨床試験で、体重に関連した医学的問題を有する肥満または過体重の治療のために、食事療法・運動療法に加えて「Zepbound」を投与した患者については、コレステロール値、血圧およびウエストサイズに影響を与えることが認められた。

 なお、「Zepbound」の使用は、ときに重度の消化器系有害事象につながる可能性がある。もっとも多く報告された有害事象(臨床試験参加者の5%以上に発現)は、悪心・下痢・嘔吐・便秘・腹痛・消化不良・注射部位反応・疲労・過敏反応・おくび・脱毛・胃食道逆流疾患だった。

 複数の研究で、大半の悪心・下痢・嘔吐は、増量の際に生じたが、その影響はおおむね経時的に減少した。複数の研究で、Zepbound群ではプラセボ群よりも多く消化器系副作用が認められ、これらの副作用により治療を受けた患者はプラセボ群よりZepbound群の方が多くみられた。

 また、米国での「Zepbound」の添付文書には、甲状腺C細胞腫瘍に関する警告が囲みの枠付きで記載されている。「Zepbound」は、甲状腺髄様がんの既往歴または家族歴を有する患者、多発性内分泌腫瘍症候群2型の患者、およびチルゼパチドまたは「Zepbound」の添加物に対して重度の過敏症を有する患者には禁忌とされている。

 肥満行動連合(Obesity Action Coalition)の理事長兼CEOであるJoe Nadglowski氏は次のように述べている。
 「肥満は慢性疾患であり、心疾患、脳卒中、糖尿病などの重篤な合併症を引き起こす可能性がある。肥満は治療可能な慢性疾患として知られているにもかかわらず、肥満を抱えて生きる人々は、健康と体重管理の道のりで依然として多くの課題に直面している。新たな治療選択肢の登場は、この疾患と闘いながら体重管理のより良い選択肢を求めている多くの肥満患者に希望をもたらすだろう」。

 リリー糖尿病・肥満症事業部でのグローバル・メディカル・アフェアーズのシニア・バイスプレジデントであるLeonard Glass氏は次のように述べている。
 「残念ながら、肥満について科学的にエビデンスが示しているものとは正反対に、『肥満は生活習慣上の選択によるものであり個人で管理すべきもの』としてしばしばみなされている。何十年にもわたり、食事と運動は減量の有力な選択肢だったが、このアプローチで20~30回にもわたって減量を試みる人は珍しくない。現在の研究では、低カロリーの食事に体が反応することで、空腹感を増加させて満腹感を減少させ、減量をより難しくさせている可能性が示されている」

 「Zepbound」は、米国で年末までに6種類の用量[2.5mg、5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mg]が発売となる予定としている。また、チルゼパチドについては、欧州・中国・英国をはじめとするいくつかの市場で、体重管理の適応に関する審査が行われている。

 なお、日本では現在、承認されているチルゼパチドの適応症は「2型糖尿病」であり、2型糖尿病の治療以外を目的としての使用は承認されていないとしている。

FDA Approves New Medication for Chronic Weight Management (米国食品医薬品局 2023年11月8日)
Zepbound. Prescribing Information. Lilly USA, LLC.

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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