SGLT2阻害薬の血圧低下作用はGLP-1受容体作動薬よりも優れている 2型糖尿病患者の血圧管理
SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の臓器保護効果を比較
血糖降下薬であるSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は、近年の大規模臨床試験で、心血管合併症のみならず腎不全発症抑制にも効果を示すことが報告されている。
さらに、両薬剤は血糖低下作用以外にも、体重減少・血圧低下・脂質代謝改善など、他の血糖降下薬にはない多面的作用をもち、臓器保護作用のメカニズムのひとつと考えられている。
しかし、臓器保護効果に対して、両薬剤の直接的比較を行った臨床研究はこれまでなかった。そこで研究グループは今回、傾向スコアの重み付け解析(IPW)を用いた実臨床データ解析方法で実施した。
傾向スコアは、ランダム化されていない観察研究などで、2群間の背景(交絡因子)を調整するときに用いられる。また、重み付けは、傾向スコア解析で用いられる統計手法で、傾向スコアに合わせて「重み」をつけることにより2群間の背景のばらつきを調整できる。
SGLT2阻害薬治療群で血圧・体重がより低下 年間のeGFR変化量も高値
横浜市立大学などは今回の研究で、血圧管理と腎保護効果の関連を明確にするため、お互いに併用をしていない、投与前血圧130/80mmHg以上の症例とし、SGLT2阻害薬群384例、GLP-1受容体作動薬群160名が解析に組み込んだ。2群間の背景を調整するため、傾向スコアを用いた6パターンの重み付け(IPW)方法を実施した。
神奈川県内科医学会高血圧腎疾患対策委員会が中心となり、神奈川県内およそ30の医療機関に通院中の2型糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬もしくはGLP-1受容体作動薬の使用症例の後ろ向き調査を行った。
その結果、主要アウトカムである血圧管理[130/80mmHg]目標達成に関しては、SGLT2阻害薬にて有意に高く、統合されたオッズ比は2.09(95%信頼区間1.80~2.43)だった。
さらに、もっとも2群間の標準差違の少なかったATEモデル(傾向スコア0.05から0.95症例のみを抽出)で、一般化線形モデルにて解析を行ったところ、SGLT2阻害薬治療群では、GLP-1受容体作動薬治療群と比べ、拡張期血圧・平均血圧・体重はより低下し、年間の推算糸球体濾過量(eGFR)の変化量は有意に高値を示した。
主要アウトカムである血圧管理[130/80mmHg]目標達成は、SGLT2阻害薬が有意に高く、オッズ比は2.09に
高血圧合併の糖尿病患者でSGLT2阻害薬が優先されるひとつのエビデンスに
研究は、横浜市立大学大学院医学研究科循環器・腎臓・高血圧内科学の小林一雄氏(神奈川県内科医学会高血圧・腎疾患対策委員会委員/内科クリニックこばやし院長)、および田村功一教授らの研究グループが、神奈川県内科医学会高血圧腎疾患対策委員会と共同して行ったもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載された。
「今回の研究は、併用療法が必要となることが多い糖尿病の実臨床で、SGLT2阻害薬が優先されるひとつのエビデンスになると考えられます。厳格な血圧管理が求められる糖尿病で、血圧管理に有効かつそれが腎保護にもつながることが明らかとなったことから、今後は高血圧を合併している糖尿病患者に対して積極的にSGLT2阻害薬を投与することが期待されます」と、研究グループでは述べている。
なお、「本研究は後ろ向き調査研究であり、傾向スコアを用いた解析とはいえ、すべての交絡因子の調整はできておらず、本研究の結果をふまえ今後、世界では前向き研究で結果の確認が行われることが期待されます」としている。
横浜市立大学大学院医学研究科循環器・腎臓・高血圧内科学
Comparison of the blood pressure management between sodium glucose cotransporter 2 inhibitors and glucagon-like peptide 1 receptor agonists (Scientific Reports 2022年9月27日)